【106】聖女様の初デート(2)
エネシーお義母様の、普段は見られない笑顔にちょっとドキッとする。いつもは素敵な伯爵夫人なのに、今は27歳の等身大の女性に見える。
なんだか毒気が抜かれてちゃったけど、一応抗議してみた
「何が可笑しいのですか?
これでもわたし……毎日真剣に悩んでいるのですよ」
「あら。ごめんなさい。つい。可笑しくって!
だってそうで御座いましょう?
そんな事を思っているの、ラフィーネ。当の本人の貴女だけですよ」
「それは……どういう……」
「三日!三日いただけるかしら?」
何が三日なのだろう?
「えっと……その……」
「百聞は一見に如かずという言うでしょう?」
エネシーはニコニコして
「ラフィーネ。何も心配しなくて良いのよ。あら?むしろ悩んだ方が良いのかしら?
どちらにせよ三日お待ちになって!
悪いようにしないから!」
☆
あのお茶会から三日後の今朝。
パラナとキャロルの侍女コンビが何時になく張り切っている。何故か朝から沐浴して、エステで身体中磨かれて、髪にも勝負用の香油を塗られて、化粧も念入りにされて、鈍感なわたしにも分かるくらい普通の姿より綺麗にされたのです
「えっと……これから何があるの?」
「それは秘密です」
「わたし達はただ指示に従っただけです」
澄まし顔のパラナとウキウキ顔のキャロル
──絶対何か隠している
そして用意された服は……
「これを着るの?」
それは何時も着ているようなドレスではなくて、なんかちょっと地味というか……
「これは平民の着る服?」
「はい。奥様」
「さっ。着替えましょう」
二人に急かされて服を着る。
青いワンピースの平民の普段着。
でも白いフリルも付いていて、可愛い。
ちょっと胸元盛ってる下着を着けた。ワンピースのシルエット的には正解だけど、ちょっと女として哀しい。
鍔広の帽子を被り外へ出ると、オルフェル殿下がいた。
オルフェルも平民にしては上等な服を着ている。でも王子様オーラが凄くて眩しい!
こんな格好しているってことは……
「オルフェル……街へいくの?」
「ああ。そうだよ。今日はぼく達の初デートだよ」
──デート!
デートなんて記憶喪失のわたしには初めて!
どんなデートになるのか、今からドキドキしている。
そしてオルフェルにエスコートされて馬車に乗り込む。
走りがてら、色々説明して貰ったの。
本当は領地を領主として、その妻のラフィーネ夫人と巡る予定だった。その時間を作る為に公務を前倒しで進めていたから、最近忙しかったのはそのせいね。
でもエネシーさんから三日前に強烈なダメ出しを貰ったという。その時の再現……
☆
「新婚の花嫁様を放って置いて何事ですか?」
「だから……領主として領地を見せてあげようと……」
「それはそれ!です。
良いですか?ラフィーネは人格が戻っても記憶喪失のままなのです。ただでさえ不安なのに、夫の貴方が放置しすぎるせいで尚更不安が募っているのです!
公務の領地巡りで不安が取れますか!」
「なんだか怖いぞルシアン夫人」
そこでエネシーさん。バンッ!って机を叩いたらしい
「当たり前です!今は無礼を承知で貴方の義母として換言しているのよ!三日後!ラフィーネに街を案内しなさい!分かりましたね」
「そのように急に言われても……色々と有るのだ……」
「だから三日の猶予をあげたの!
もう……ハッキリ言わないと分からないかしら?
わたしは貴方と五歳しか違わない女です。
女というのはね、自己重要感が大切なの。愛されているとか……大切にされているとかね。それは言葉や態度で示してあげないと伝わらないのよ。
本当にラフィーネを大切に思っているなら、つべこべ言わずにラフィーネとデートしなさい!」
「分かりました。お義母上の言うとおりに致します」
オルフェルはエネシーの有無を云わせぬ迫力に、思わず敬語で返事を返してしまったという
☆
「うふふ。なんだか情景が思い浮かびますわ」
わたしは思わず笑ってしまった。その時のオルフェルの困った顔も思い浮かぶ
「もしかしてオルフェル。わたしとのデート……嫌でしたか?」
「と……とんでもない。凄く楽しみしていた。
ただ……」
「ただ?」
オルフェルはちょっと困った顔で
「貴族的な形式ばったデートなら何度かあるし慣れているが、こういう街中デートは初めてで戸惑っている」
「……デート……女の人……慣れていらっしゃるの?」
「あっ!あくまでも貴族の付き合いってもので、男女の交際を表すものではない!両方に従者も付いていたし、高級料理店で食事を共にして近況を語り合うくらいだ!
ご……誤解しないで頂きたい!」
「ぷっ」
わたしは思わず吹き出してしまった。だって何時も微笑みを絶やさないオルフェルの慌てた顔を見て、可愛いと思ってしまったから……
「うふふふふふふふ」
「そんなに……可笑しかったですか?」
ちょっと拗ね気味なオルフェルの口調も可愛い。だからここは素直に……
「はい……オルフェル様って意外と……可愛いのですね」
わたしの言葉にポカンと口を開けているオルフェルも
……可愛い