【103】聖女様と招かざる客(7)
──真夜中──
「痛ったぁあーーーい!」
ベッドで寝ているシャノンは髪の毛を乱雑に捕まれ、床へ引き摺り落とされた。
シャノンが見上げると大きな男が髪の毛を掴んでいる。そのまま廊下を引き摺られて居間へ連れて来られた。
居間には煌々と灯りが灯り、主人用の椅子には青い髪の美少年がふんぞりかえっていた
「娘を連れて来ました」
シャノンは改めて髪を掴んでいる男を見る
「ひぃ!」
それは長身の良い顔立ちの男だったが、肌が薄い青紫色だった
──魔族?!
「ご苦労さん。そこにぶん投げてよ。ギュール」
「きゃっ!」
ギュールはシャノンを床に放り投げた
「「シャノン!」」
声のする方を見れば、父ダルイと母のエフレアも床に転がっている。見ればダルイとエフレアの顔はアザだらけで、殴られた痕跡が酷い。
周りを改めてみれば、8人の魔族がこの部屋にいた。
女性3人と5人の男。
服は浅黒いローブでフードは被っていない。
それを統率するのは、椅子に腰かけて冷たい目でこちらを見下ろしている青い髪の少年だろう。
シャノンは自分の今の美貌には自信がある。この小さな屋敷を見張っている騎士達もシャノンの美貌に一瞬息を止めるほどだ。だが本能的にこの目の前の少年には通用しない事が分かる。下手に色仕掛けでもしたら両親の二の舞だろう。
シャノンは虚勢を張る事も出来ず、大人しく床に転がっているしかなかった。
頭目の少年は
「これで揃ったようだねぇ。ところでダルイとか言ったね。もう一度聞くよ。レイアちゃんをどうして殺したのさ」
「こ……殺していない……本当だ」
ダルイは怯えて懇願している
「バエリン。蹴っちゃって」
「はっ!」
バエリンと呼ばれた魔族の女が近付いて来る
「ぎゃふ!」
「シャノン!」
シャノンは思い切り腹部を蹴られた。口から鮮血が迸る
「本当の事を話しなよ。毒殺したんでしょ?遺体は何処に埋めたのさ。でないと今度は顔を蹴っちゃうよ」
──顔を蹴るって……わたしの?
シャノンは顔を両手で覆う
「本当だ!逃げたんだ!小さな天窓を壊して屋根裏部屋から脱出した!それに殺すつもりは無かった!アルゼン伯爵に売り払うつもりで、前金も貰っていた。本当だ!」
「アルゼン伯爵?」
ダルイは必死にアルゼン伯爵の事を説明した
「ということはアレか?
キミはボクのレイアちゃんを監禁して虐待した挙げ句、用が済んだら変態伯爵のエロジジイに売り払い、好きなように陵辱させるつもりだったと?」
「いや……その……そう言う訳では……」
「ふーん」
少年はシャノンを見る
「じゃ。復讐にこの女も好きにして良いって事だね。
ギュール!他の男を連れて何処かの部屋で陵辱してあげて……」
「やっ!嫌!やだ!わたしまだ乙女なの!お願いします!何でもします!だから……それだけは……」
「ふーん」
少年はゴミを見るようにシャノンを見る
「何でもするならさ。大人しく陵辱されても良いよね。
男5人もいるからさ。初めては好みの男を選ばせてあげるよ。あっ。その中にボクは含まれていないからね。
お前みたいなカス触れたくもないんだよ」
「嫌です!御願いします!僕!貴方の僕になります。何でもします!だから……初めてを5人だなんて……許して下さい!御願いします!」
シャノンは這いつくばって必死に懇願する
「ギュール。どうするよ。女を抱きたいでしょ?
こいつ。好きにしていいって言ったらどうする?」
「殺します。抱くなら魔族の女に限ります」
「ふーん」
少年はつまらなそうにシャノンを見て、直ぐに目線を切り、ダルイを見る
「ねぇ。レイアにどんな虐待していたの?」
ダルイはしどろもどろで説明する
「えっ?毎日パン一個とスープ一杯?
それを三年間も?おまけに病気に見せかける為にスープに毒を入れてたの?マジで?……」
少年は呆れ返り、シャノンを一瞥し
「決めた!こいつにも同じ目に合わせてやる。
バエリン。何処かで適当な場所を見付けて監禁してあげて。いや……ベリャンでいいや。ギュールに担がせて連れて行ってよ。
その前に……」
少年はツカツカとダルイとエフレアの前に来て座る。
ダルイとエフレアの顔を交互に見て
「大分体が傷んでいるようだね。長年の不摂生が祟って病気が進行していたよ。でもこのところ健康な食生活送ったせいか、体も痩せて病気の症状も収まって来たでしょ。あっ。ボクね。顔をみたらそんな情報が頭に浮かぶんだ。体を舐めたら、もっと詳しい情報がわかるけど、君らなんか味わいたくないからね。
その前に自己紹介しとくね」
少年は立ち上がって恭しく礼をして
「ボクはジェフリー。ファルシア王国の第四王子。
ジェフリー・フルエルフ・ファルシアさ。
君らが正気を失う前に、自己紹介しとこうと思ってね。
君らが人間ぽい理性を保っていられるのは、今日で最後だからさ。その餞に特別に教えてあげたの。
まっ。そこの這いつくばっている女は今後の心掛け次第ってとこかな?」
「……王子……理性を失う……今日で最後……」
ジェフリーはぶつくさ呟いているダルイの頭を掴むと
「じゃ。さいなら」
その言葉を終えるな否や、ダルイはガタガタと激しく痙攣を始めた。