【101】聖女様と招かざる客(5)
シャノンは幸せだった。
シャノンが11歳の時、引っ越しをした。
とても大きな家でアスタリス侯爵邸と呼ばれていた。
その家にはレイアという深い紺色の髪と瞳の、同い年の女の子がいた。彼女は本来の後継者の娘だった。
シャノンから見ても美しい少女だった。いつも可愛いとチヤホヤされている自分たけど、このレイアにいつか自分の中心の場所が奪われるのではないか?と感じた。
だからお父様のダルイ子爵におねだりした
「お父様。わたし。あの子の部屋が欲しい。
そしてあの子には何もあげないで!」
その日。
レイアの部屋はシャノンの物となった。
レイアは違う部屋に移された。
その日からレイアはいつも泣いていた。
泣いていなくても、目を赤く晴らしていた。
そしてメイド達が甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
だから
「お父様。レイアを御世話する人。みんなわたしを虐めるの」
可愛い嘘を吐いた。
次の日にはレイアはひとりぼっちになっていた。
わたしがおねだりする度に、レイアの部屋はどんどんと遠く、陽の当たらない場所へと移った。
そしてレイアは寝込むようになった。
レイアを世話する人はまだいた。でもレイアを大切に扱ってくれる人は全員居なくなった。
そしてわたしはこのアスタリス邸の太陽となった。
ある日、父と母がコソコソと話をしているのを聞いた
「おの陰気臭い顔の女の顔。もう見たくないわ!
さっさと殺せば良いのに……」
「馬鹿を言うな!もし死んで見ろ。我々はこの屋敷を追い出されてしまう。借金だってあのレイアの後見人になって、やっと完済したのだ。
ここを追い出されたら、身の破滅だ」
エフレアの容赦ない問いに、ダルイはレイアを庇う。庇うと云うよりも
「エフレア。それもレイアが15歳になるまでの辛抱だ。成人したら後継者になる。そうなればあの女の署名一つで後継者の地位をわたしに移すことが出来る。
本来はそれも違法で国王の判がいるそうだが、ガーフィル第二王子殿下が何とかして下さると思う。
あやつは今毒を盛られて弱っている。俺が後継者となれば、一ヶ月後には病死するだろうな」
「そんな病死なんて……もっと惨たらしく殺しましょうよ!浮浪者達に死ぬまで好きにさせるとか!」
「馬鹿な事を言うな。あれでも貴族の端くれだ。毒で大人しく殺してやれ。毒の量をほんの小さじ一杯増やせばそれで済む。
あれでも一応身内だからな。あまり無体な真似は後味悪い」
両親の会話を聞いてシャノンは歓喜した!
早速メイドを引き連れて北側の陽の翳ったレイアの部屋に突入した
「あんた!殺されるわよ!いい気味!」
そして嬉々としてレイアへ毒殺される話をした。
そしたらその日。
レイアは屋根裏部屋に移された。
メイドがレイアが逃げられないようにするためだと、教えてくれた。
月に一回。レイアは屋根裏部屋から出てくる。
父のダルイ子爵に会うためだ。
お父様は『レイアの病状が順調に進行しているか』確認しているらしかった。
久しぶりに見るレイアは骨と皮だけになり、目だけギラギラしていた。
シァノンは美しい少女のレイアが醜くなった姿を見るのが楽しみになった。
それで御茶会を開いて招いてあげた。
レイアには何一つ出さないで、シャノンのテーブルの前にはところ狭しとお菓子が並んでいた。
レイアは羨ましそうにシャノンの食べる姿を見ていた。
シャノンはそんなレイアへ
「あら?お腹が空いたの?卑しいわね。
これでもお食べ!」
シャノンはケーキを皿ごと投げつけた。
レイアはヒョイと避けた。
反抗的なのでメイドに押さえ付けさせて、お菓子を一杯投げてあげた。
骨と皮だけのレイアは悔しそうに顔を歪め、涙を流していた。
シャノンは
「皆さん!この『いらない子ちゃん』にお土産を持たせてあげないとね」
床に落ちたぐちゃぐちゃのケーキとバラバラのクッキーを紙箱にギューギュー詰め込み、お土産に持たせてあげた。
レイアはその生ゴミ入りの箱詰めを受け取って、俯いて体をブルブル震わせて泣いていた。
いい気味だと思った。
それから親切なシャノンは、毎回レイアにお土産を持たせてあげることにした。