【98】聖女様と招かざる客(2)
「馬鹿をいうなジェフリー!ラフィーネは誰にも渡さない」
オルフェルが珍しく感情を露にする
「でもさぁ。ただの平民でしょぉお?
その子はボクに譲って、他の奴を持ってこればいいじゃん?兄上モテモテだし、濡れて手に粟でしょ?選り取り見取りで選び放題じゃない?
その子さぁ!甘いいい匂いするんだよね!それね、魔力の匂い!ボクが聖女見つけるまで、その子で癒されようと思うんだ!ねぇ!ラフィーネちゃん!」
ジェフリーは手をフリフリしてアピールする。
ラフィーネは思わず後退りする
「ほら!ラフィーネちゃんもボクが良いって言ってるよ?今から連れて帰るけどいいよね?」
「いいわけあるか!」
オルフェルは、ラフィーネとの間に入り込み、イヤイヤと首を振る彼女へ
「ラフィーネ。もう戻りなさい」
そう言ってラフィーネを応接室から退かせる
「ジェフリー。悪いがもうお引き取り願おうか?
わたしは平民だからラフィーネを、選んだのではない。
ラフィーネと一生を共に過ごしたいから、彼女を選んだのだ。だから、君には渡しはしない」
「ヒュー!お熱いねぇえ!
ちょっとからかっただけだよぉ兄上。でもくれるって言ったらモチロン貰ったさ。
それと……はいっ!これっ!御祝い……ということでボクはそろそろ失敬するとするよ!
じゃね!ばいびー」
ジェフリーはヘラヘラと笑いながら水晶宮を出て行った。
何処まで本気か嘘か分からないジェフリーの態度に放心するオルフェル。
ふと我に返りジェフリーに渡された御祝いの品を見る
「こ……これは……」
[金の魔石]だった。
魔石は魔物から取れる石の事。
[魔物から取れる石]だから魔石とも
[魔力の塊の石]だからその名が付いたとも言われるが、本当のところは分からない。
魔石には等級があり、下級の魔石は石炭のような感じで、上級の魔力の純度が高い魔石ほど透明に近くなり、キラキラと金色を帯びている。モチロン強い魔物になれば等級の高い魔石を落とす。
そしてこの[金の魔石]も金色を帯びた透明な魔石で、最高級品だ。これは手のひらくらいの大きさだが、この大きさともなれば数億エルは下らないだろう。
少なくとも、おいそれと手に入る物でもないし、ホイホイと人にあげられる物でもない。それも梱包も何もせずに、まるで飴玉をあげるように裸で人に渡す品物では断じてない。
第四王子であるジェフリーの母イーレイの家門は子爵家で、有力でも裕福でも無かった筈。この魔石を売ればもっと王宮内でも贅沢な暮らしが出来るだろうし、後継者争いの為の聖女探しの人員も揃えることも可能だろう
──あの変人王子だからな……
これだけの品物をくれたのだ。少なくとも御祝いに来てくれたのは本当だろう。
だが、ジェフリーのラフィーネへの態度は頷けない。
オルフェルは執事に[金の魔石]を渡すと、急ぎラフィーネの元へ向かった。
ノックもそこそこに、ラフィーネの寝室の扉を開けた
「きゃ!!」
裸のラフィーネが背を向ける
「すっ……済まない」
オルフェルは慌てて扉を閉める。
視界の端に寝室から続きの、隣の部屋のバスタブが見えたからおそらく入浴するつもりだったのだろう。
貴族家の者は多くの人にかしずかれているから、入浴するでもメイドに脱がされ洗われるので、人前で肌を晒すのは慣れている。女性でも異性に裸を見られても恥ずかしがらない御令嬢も多い。
けれどラフィーネは平民を生きて来た。もしレイアとして貴族時代を過ごした事があったとしても、記憶は失っているが平民の感性はあったのだろう。
だが……一応世間的には同じベッドを共に過ごし、初夜も済ませた事になっている。ということは裸なんてお互いに見慣れている筈で、あんな恥ずかしがる態度は使用人には奇異に映るかも知れない。
オルフェルがラフィーネの元へ急ぎ向かったのは、ジェフリー王子がラフィーネの首筋を舐めたのを早く清めて欲しくて、入浴を薦めにきたのだ。こんな時間に入浴してたのも、ラフィーネもきっと同じ気持ちだったのだろう。
ノックしても返事を待たなかった自分が悪い……。
それにしても……。
裸も綺麗だったな……。