表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/128

【1】聖女様の屋根裏部屋(1)



本編121話までは毎日予約投稿します。

本編はまだ続きますが一旦そこで修了、またストックが溜まり次第連続投稿します。



週毎に投稿時間を変更する予定です。

更新日時は最新話で告知しています。


楽しんで頂けると嬉しいです



薄暗い部屋。

小さな天窓からの光が唯一の光源。


傾いた机に壊れた棚。

床は歩くとギシギシいうし、天井は低い。

大人なら中腰にならないと立っていられない。


壁際。屋根の傾斜でせまく低い隙間には、みすぼらしいベッドと汚ならしい毛布。そのベッドに灰色の継ぎ接ぎだらけのワンピースを着た女の子が座っていた。


少女は青い髪に紺色の瞳。

目は虚ろで生気がない。

顔立ちは良いがあまりにも汚ならしい。

実際この部屋も相当臭い。

もちろん少女の体臭もひどい。


痩せこけてワンピースから覗く細い腕や足は、骨と皮だけのようだ


「開けな!」


床の下から声がする。

少女は床の一部を外した。


下から明かりが漏れる。

そこへ


ガンッ


大きな音を立てて、梯子が掛けられる。

下からメイドが顔をだす。

細面で意地の悪そうな顔だ


「あーくっさいくっさい!臭いわ!

何であたしがあんたの世話を焼かなきゃいけないの!」


バチン!


梯子を上りきると、いきなり少女の頬を叩いた!

少女は力なくベッドに倒れ込む


「あいかわらず屋根裏部屋(ここ)は辛気臭いところだね?まあ。部屋の主がこんなだから、仕方ないね。

侯爵家の『いらない子』ちゃん?」


メイドはピクリとも動かない少女に声を掛けた。

少女は無言のままだ


「あーイヤだイヤだ。ほら。ご飯だよ。

ここに置くからね。残さず食べるんだよ」


籠の中からパン一個と蓋付きの容器に入ったスープを置く。メイドは『もうここには用はない』とばかりに、そそくさと梯子を降りる。


梯子は外され、ポッカリと開いた穴から明るい廊下が覗く


「水!さっさと引き上げな」


メイドが廊下から上を見上げて叫ぶ。

ベッドの少女はムクッと起き上がると、無表情で立ち上がる。まだ背丈が低いので中腰に成らなくて済む。


メイドが屋根裏部屋の天井の梁に付いている滑車にロープを通してあり、そのロープ……下に水入りバケツを結わえてない方を引っ張る。

このロープの端は長く廊下まで届いているので、本当はメイドが引っ張れる筈だけど、意地の悪いメイドは力のない少女にそれをやらせて楽しんでいるのだ。


少女は穴から転げ落ちないように、柱の後ろ側に回り込んで背中を預ける。そしてロープをゆっくり引き上げる。

バケツは小さいが、細い腕が重みでプルプル震えている。

時間をかけてようやく水入りバケツを引き上げた。ロープが滑り落ちないないように、柱に打ってある金属にロープを何重か巻いて固定する。


そして水バケツを床に置いてから、バケツの取っ手のロープを外す


「遅いよ!さっさとロープを落としな!」


少女は柱の金属に結わえてあるロープを外して、下の廊下に落とす。滑車に残っている分も残らず落とす。

メイドはロープを拾うとグルグル輪を作ってから、腕に通し


「ほら!さっさと蓋をしな!」


少女は言われた通り下界とこの屋根裏の境目である

〈天井〉兼〈床〉の板をハメる。

屋根裏部屋は人間の住む世界から遮断された。


少女はバケツの中に浮いている雑巾を取る。

小さな洗面器に雑巾を移す。

別にこれで床を掃除しろというのではない。


この小さなバケツ一杯の水が、今日の飲み水であり、体を拭く風呂代わりになるのだ。


以前はちゃんと乾いたタオルを持ってきてくれていた。

けれどどうせ汚れるからと、いつしか汚い雑巾が水に浸かったままで用意されるようになった。

しかも身体なんか拭いていたら、自分の生命維持の為の飲み水が無くなってしまう。


バケツも重い鉄製にされて、その分、水の量も減らされたから満足に身体も拭けない。タオルも汚れた床を拭いた雑巾をわざわざ入れているから、それで身体を拭いてもかえって汚れてしまう。


少女は取っ手の欠けたコップで、バケツの中の水を汲みゴクゴク飲んだ。バケツの水は濁っていた。


昔はこんな仕打ちに耐えきれず、ずっと泣いていた。

けれど涙は枯れ果て、今は無表情だ。


少女は一脚だけある背もたれの無い椅子に腰かけると、傾いたテーブルに置かれたパンにかじりつく。

そして半分ほど一気に食べて、スープの入った容器の蓋を開ける。


パンを半分残したのは、今日の夕食分だ。


そう……少女はたった一個のパンと一杯のスープで、一日を賄っているのだ。


少女はスープを覗き込む


「うわ!今日はお肉も入っている」


お肉がほんのひと欠片、スープの奥に沈んでいた。

具の殆んどない(ぬる)いスープ。


ここにはスプーンがないので、少女は容器を持ち上げて縁に口をつけスープを一口に含む。


そしてそっとテーブルに容器を戻すと、ゴクリと飲み込む。少女は右手を口にあて、左手は喉を押さえて床に倒れ込む。

全身がピクピク痙攣して、口の端から血が流れる。



少女はそれっきり動かなくなった。







少しでも続きが気になったり『面白い』と感じてくださったら、ブックマーク登録と広告の後のポイント

☆☆☆☆☆→★★★★★

にしていただけると嬉しいです!

もちろんポイントは何ポイントでも構いません。

応援宜しくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ