―――ぷるん(試験があるらしいぜ)
「そ、それではこちらに、必要事項のご記入をお願い致します」
受付嬢さんから紙とペンを受け取り、頭にスライムのラムダを乗せたまま名前と年齢、そして御業などの必要事項を書いていく。
「あの~。差し支えなければ、お伺いしたいのですが」
「はい。なんですか?」
僕が個人情報を書き込んでる中、受付嬢さんから声をかけられる。
まぁ書きながらでもいいよね。スラスラスラスラ。
「そのスライムは、貴方が従えてる……んですよね?もしそうなら、どうやって従えたのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
受付嬢さんは未だに信じられないのか、確認も含めてラムダをどうやって仲間にしたのか聞いてくる。
僕以外の魔物使いにも仲間を作って欲しいし、喜んで教えましょう!
「いいですよ。でも従えてる訳じゃないですよ?このスライム……ラムダは僕の仲間です」
「―――ぷるん(正確には無理矢理、だけどな。従ってることには従ってんぜ)」
「え?それってどういう……従えてるのとは違うのですか?」
「魔物使いは魔物を従えるんじゃなくて、仲間にする為の御業ですから。今までの魔物使いが魔物を仲間に出来なかったのは、魔物を軽視し過ぎてたのが原因だと思います。僕も今日初めてやって偶々成功しただけの可能性もあるので、確証はまだないですけど」
僕の言葉に受付嬢さんは、さらに困惑の表情を浮かべる。
何を言ってるのかしらこの子?とでも言いたげだ。
うーん……もう少し噛み砕いて説明した方が良かったかな?
えっと確かあの時はラムダに敬意を払い、力を貸して欲しいと、ほとんど対等の立場のような感じで話した様な気がする。
その後は結局戦う羽目になったけど、自然の生き物らしく上下関係をハッキリさせときたかったんだと思う。
「とにかく、魔物も僕たちと同じ生き物ですから、ちゃんと敬意を払いましょうってことです。一種の家族みたいな物です。ペットみたいな」
「―――ぷるん…(配下とか僕って言って欲しかったぞ…。まぁご主人がその方がいいって言うんなら、いいけどさ)」
「はぁ?魔物に敬意、ですか…。実に信じ難いお話ですが、わかりました。情報提供、ありがとうございます」
「提供……てことは、情報料を貰えたりなんかします?」
僕の言葉に受付嬢さんは考える素振りをしてから答える。
「そうですね…。情報が確実な物であれば、お支払い出来るかと思います」
「まぁそうなりますよね。商品が不良品じゃ意味ないですし」
これはかなり検証する必要があるね。同じ魔物は2匹以上仲間に出来ないし、時間がかかりそう。
それに僕の装備を調える為に、そしてサナとフランさんにお礼する為にもお金は必要だ。1000年の時を経て、ようやく魔物使いが色々明らかになるかもしれないのだ。情報料はガッポリ頂きたい。
さて、そうなると次は誰を仲間にしようかな?コボルトは時期尚早すぎるし、僕とラムダのレベルを上げたらゴブリンを仲間にしに行くのがベストだよね?
と、そんな脳内会議をしている内に、登録に必要な記入が終わった。あとは任意枠として、希望と要望があれば自由に書いてという欄がある。
「希望と要望か…。サナ、フランさん。ギルドへの希望と要望って何が可能なんですか?」
今まで間に入らず、ずっと見守ってくれていた先輩冒険者2人に聞く。
僕のことを考えて、魔物使いの説明や情報料のことについて敢えて何も言わずにいてくれてたんだと思う。
これからは僕とラムダだけでやっていかないといけないからね。ここで助け舟を出されてはいけない。
特に魔物を仲間にした魔物使いは僕が初めてなんだ。ほぼほぼ感覚のような物だったけど、しっかり自分の口で説明しないといけない。
だから2人は黙って見守ってくれていたんだ。魔物を仲間にする方法については、証人になってもらえるけど、今は「それで行ける!」っていう確証もないしね。
サナはずっと言いたくてうずうずしてたけど。
しかしさすがに希望と要望に関しては何が通るのかわからないので、素直に先輩冒険者2人に聞くことにした。
「う~ん。私は特に何も無かったから、書かなかったわね。何かあれば、その都度言えばいいし」
「所謂、事前報告や自身のアピール欄みたいな物です。私の場合はパーティーでのアピールになりますが、“僧侶の私がいるので戦闘を安定して行えるから、討伐クエストを積極的に回して欲しい”といったような感じですね。自分の実力に自信が無い方は、難易度の低い依頼を回して頂いてるようです」
それを聞いて、僕は自分とラムダのステータスのことを考える。
僕はこうしてラムダを仲間にしたけれど、今のままでは最弱には変わりはない。お互い貧弱ステータスだしね。
だけどラムダが成長すれば、その評価も自ずと変わるだろう。だったら別に今書かなくても良さそうだ。
これだけ強くなったからこれに見合った依頼を回して~、みたいな。
……ん?強く……そうだ!仲間にした魔物たちが出現する場所の依頼を優先的に回してもらえばいいんだ!
依頼も達成出来て、仲間も強く出来て一石二鳥じゃん。よし、それで行こう。
ということで、次のように書いた。
“仲間にした魔物たちが出現する場所の依頼を希望します。新しく仲間が出来たら、その都度お知らせします”
「これでいいですか?」
記入が終わり、僕は受付嬢さんに紙を手渡す。
これで僕は晴れて冒険者に―――
「はい、確認しました。次の試験は五日後となっておりますので、その日までお待ちください」
「え……試験?そんなのあったっけ?」
これは初耳だ。冒険者登録するには、ただ紙を書いて渡すだけで良いって聞いてたから。
サナに聞いてみるが、目を見開いて首を横に振り、初耳だという反応を見せる。
しかしフランさんは知っていたらしく、簡単に説明してくれた。
「近年、新人冒険者が自分の実力を過信し、身の丈に合わない依頼を受けることが頻発して命を落とす者が多いんですよ。そこで冒険者ギルドは、今年から月一でBランク以上のベテラン冒険者に依頼して試験官になってもらい、実力を測る試験を実施することにしたんです。今は三月、つまり三回目の試験ですね。なのでこのことを知らない方は冒険者含め、結構多いと思いますよ。ダンジョン都市を攻略している方やお知らせの掲示板を見ない人なんかは、特にそうなんじゃないですかね?」
「ギクッ…」
フランさんの言葉に図星を突かれたのか、苦虫を嚙み潰したような顔をするサナ。
「どっちもサナのことなんだね?」
「いや~。いつも注意すべきことは事前に受付から聞かされるから、あまり掲示板は見なくって…。ていうか、知ってたならフランさんも教えてくれれば良かったのに!」
「ははは。すみません、実のところ私も試験の存在を忘れていたのですよ。お恥ずかしい限りです」
「あー!今それを言うってことは、つまり私だけ恥ずかしめようとしたってこと!?信じられない!」
「すみませんすみません。ホープさんが無事に冒険者登録出来ましたら、お祝いの費用を負担致しますので」
「ガルルルル…」
「サナの恨みは深いですので、最低7割は負担させられますね」
「これは手厳しい」
サナはダンジョン都市を拠点に活動している冒険者だ。
ダンジョンというのは魔物が掬う魔の領域と呼ばれており、詳細は省くけど、要は魔物がいっぱいいるやばい場所ということ。だけどその分経験値が美味しい場所だ。
人間というのは業と欲が深い生き物なもんで、ダンジョンの周りに都市を築き上げ、最高のレベリング上に仕上げたのがダンジョン都市と呼ばれるものだ。
ダンジョン都市の役割は、冒険者を鍛え上げ、魔王軍との戦いに臨んでもらうことにある。
戦場から離れてるから実感が湧かないけど、今でも魔王軍との戦争が続いているので、強い人を育て上げるのは国の……というか、世界全体の共通認識である。
……まぁ戦争とは関係なく、サナは僕を含めた家族を守れるよう強くなる為に、ダンジョン都市で己を鍛え上げているのだ。
戦争に参加するかは決めていないらしい。……まぁ国から招集がかかってしまえば、ほぼ強制的に参加させられるらしいけど。人権無視もいいとこだ。
まぁそれは置いといて……
「じゃあ僕は、五日間の内にラムダを育てなきゃいけないのか。試験でいい結果を残す為に、頑張ろうな、ラムダ」
「―――ぷるるん!(おう!任せとけご主人!Bランク冒険者とやらに、一矢の先っぽくらいは報いてやるぜ!)」
「ガルルルル…」
「それは結構なんですが、どうかサナさんを止めてください。嚙まれてしまいそうです」
「―――ぷるん…(自業自得だぜ旦那…。女を恥ずかしめた罪は重いんだぜ)」
いつの間にかじりじりと壁に追い込まれているフランさんを助け、ギルドの端の机を借りてラムダ育成会議を開くことになった。
ラムダのステータス。
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名前:ラムダ
種族:スライム
性格:男前
|ステータス|
Lv.1
体力:8
魔力:5
力:6
守:2
速:15
頭:20
運:9
|得意武器|
なし
|スキルと詳細|
分裂:身体を二つに分けることが可能。ただしそれぞれステータスが半分になる。十分なスペースが無ければ発動出来ない為、密閉空間などでは分裂が不可能。消費魔力1。
融合:分裂した身体を一つに戻す。分裂時にもらったダメージ、状態異常、経験値なども融合し、共有される。消費魔力1。
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