スライムが仲間になった!
この日、王都エメロンに激震走る出来事が起きた。
街を行き交う人々は、とある少年が頭に乗せてる物に目を向けて驚きを隠せないでいた。
それは誰もが知っている、無色透明なぷるぷるとした一つ目の魔物であった。
「え…?あれって、スライムよね?」
「噓だろ?魔物が人間に懐くなんてことあるのか!?」
「なあ。確か御業に魔物使いっていうゴミ御業があったよな?」
「ああ…。魔物を従えれるとか言って、全然魔物を従えれないっていう意味わかんない物だったはずだけど…」
「ちょっとあれ大丈夫なの?いきなり暴れ出したりとか…」
「でも懐いてるように見えるし、街を歩いてるってことは当然門番が通してるんだから―――」
「でも魔物よ?スライムとはいえ、人を襲う化け物よ」
ある者は疑惑の目を、ある者は信じられない物を見るような目を、ある者はただただ警戒を。
最弱の御業、使えない歩く魔物辞典。特に魔物使いを知っている者であれば共通の認識。
それもあり、とことん信じられない物を見る視線が多数を占めていた。
しかし少ないが、ただただ好奇の目を向けている者もいた。
その者らの目には、少年が無邪気にスキップしたりくるりと回ってる姿に対し、微笑ましい物を見る気持ちも含まれていた。
―――――――――――――――――――――――――――
「なんか凄い見られてない?」
「「でしょうね…」」
スライムを瀕死にまで追い込んだ後、僕とスライムをフランさんがすかさず治療してくれた。
おかげでスライムは一命を取り留めて、スライムは僕のことを認めて仲間になってくれた。
僕の魔物辞典が光り輝いて、スライムの基本情報と仲間になったスライムのステータスが掲載されたのが、動かぬ証拠という物だ。
そしてエメロンに帰って来て早々、周りから好奇の視線に晒され続ける僕。
まるで信じられない物でも見ているかのようだ。信じてくれ。僕は魔物使いだぞ?
魔物を仲間に出来て然るべきだ。
「まぁ如何にスライムといえども、魔物を仲間に出来たのはホープさんが史上初ですからね。この様な目を向けられても仕方ないですよ。偉業と言っても過言ではありません」
「そんなに?」
「ええ。1000年もの間、魔物使いは一度たりとも魔物を従えたことはないのですから」
フランさんは僕のしたことの重大さを簡潔に説明してくれた。
そうか。僕のやったことは偉業なのか……ドヤー!
「こぉら。調子に乗らない。確かに凄いことだけど、ホープが仲間にしたのはスライムよ?魔物使いのスキルで成長出来るとはいえ、スライム一匹じゃとても厳しいわよ」
「わかってるって。さすがにラムダ一人に任せっきりにしないよ」
「―――ぷるん(訳:今のオイラだけじゃとてもじゃないが、ゴブリンにすら勝てねぇからな。もっと仲間を増やしてくんろ、ご主人)」
ラムダというのが、このスライムに付けた名前だ。いずれビッグなスライムになって欲しくて、凄くカッコイイと思う名前を付けた。……カッコイイだろ?
ちなみにこうしてラムダを連れて歩いているのは、一種の宣伝だ。
僕は初めて魔物を仲間にした魔物使いだぞ、と。
サナは魔物使いのスキル《モンスターハウス》に入れておいた方が良いと言っていたが、どうせスライムだからとフランさんの説得もあり、こうして連れ歩いている。どうせは余計だと思うけど。
「遅かれ早かれ知られることになるのです。街中に魔物が現れたと、下手に大騒ぎにならないようにするためにも、連れて歩くのがベストでしょう」
サナはその説得に渋々了承した。
こうして僕は、ラムダは安全だと大々的に知らしめる為に大袈裟にスキップしたり、この女の子と間違われる美少女顔を武器に、くるりくるりと無邪気に回転しながら周りに危険がないことをアピールしている。
……でもちょっと疲れて来たので普通に歩こうかな。
「しかし楽しみですね。魔物使いが仲間にした魔物が、どの様に成長していくのか。もしかしたら、ドラゴンすら倒せるようになるかもですね」
「それはないですね。スライムですもん」
「ははは。言ってみただけですよ」
「大丈夫!ラムダ普通のスライムより頭がキレるもんね!ドラゴンもきっと倒せるよ」
「―――ぷりゅん!?(それはちょっと過大評価が過ぎるぜご主人!?)」
「まぁ冒険者登録したら、ほぼ毎日薬草採取とラムダの育成だろうから、そんな時は一生来ないだろうけど」
「―――ぷるん…(ほっ…)」
そんな会話をしながら、僕たちは目的の建物までやってきた。
まるで一つの小さなお城にも見えるこの豪華な建物が、冒険者ギルド。
簡単に説明すると、討伐クエストや採取クエスト。果てには迷子のペットの捜索などを受け付けている、所謂何でも屋である。
一定期間何かしらのクエストを達成せずにいると冒険者資格を強制剝奪されるが、何でも良いからクエストをこなしてギルドに貢献すれば剝奪されずに済むというシステム。
尚、高ランク帯の冒険者になると、そのランクに見合ったクエストを達成しなければちゃんと貢献したことにならないので注意。
冒険者ランクと依頼のランクは魔物と同じくS~Fに分けられてるが、その点については今回は割愛。また後で説明する。
ここに来た目的は、もちろん僕の冒険者登録を済ませる為だ。
時刻はまだ午後を回った程度。スライムの森まで大した距離もなかったこともあり、時間もあるし今日中に登録しちゃおうという話になったのだ。
魔物使いなんだし、魔物を連れて登録した方が周りに変に舐められずに済むだろうという判断から、後回しにしていた。
「それじゃあ、ちゃっちゃとホープの冒険者登録をして、盛大にお祝いしましょうか。もちろんフランさんも一緒に」
「本当によろしいのですか?見ず知らずの私がご一緒して」
「フランさんがいなかったら、僕とラムダは無事じゃ済みませんでしたから。僕も一緒がいいです」
「―――ぷるん!(遠慮すんなって。一緒に宴をしようぜ旦那!)」
僕たちの言葉に笑みを浮かべながら、「わかりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」と言う。
ぶっちゃけ今回のMVPはフランさんだし、お礼にご馳走くらいさせて欲しい。
……まぁ情けないことに、奢るのはサナなんだけど。
なので、いつか僕からも二人にちゃんとお礼をすると約束している。その為にもランクEくらいにはなっておかないとね。
まぁそれはそうと……
「あ。そうだホープ、さすがにラムダを連れて入るとややこしくなりそうだし、念の為に入れておいた方が―――」
「失礼しまーす!冒険者登録したいんですけどー!」
「人の話を聞きなさーい!?」
「まぁまぁ。ホープさんの頭の上に乗っていますので、いきなり切りかかれるなんてことにはならないですよ」
冒険者ギルドの大きなスイングドアを開けて中に入ると、中にいた強面のおじさんやら、爽やかなお兄さんやら、若手の冒険者らしき人たちがこちらを一瞥する。
すると何人かが僕の頭の上でぷるぷる震えるラムダに反応し、武器に手をかけた。
他は武器に手を伸ばさなくとも、警戒心と疑惑を多分に含んだ視線を一斉に向けているの感じる。
僕はそんな中を特に臆することもなく進んで行く。丁度空いてる時間帯だったらしく、受付は空いていた。
「ちょっとホープ!まだ事情を知らない人たちだっているんだから、街中はともかく冒険者ギルドでくらいはラムダをハウスしなさいよ!」
「えー!どうせ魔物使いで登録するんだから、ここでも宣伝も兼ねてラムダを出しておいたほうがいいじゃーん」
サナのお叱りの言葉に対し、僕は少し大袈裟に答える。
そして僕たちのやり取りを聞いて、周りの冒険者たちの顔はさらに驚愕に染まる。
「おい。あのガキ今―――」
「ああ。魔物使いだって」
「魔物使いは魔物を使役出来ない役立たずじゃねぇのかよ?」
「そのはずだ。だから冒険者ギルドも、薬草採取とスライム討伐のクエストしか魔物使いには回さないんだからな」
純粋に魔物使いの価値に疑問を持ち始める者。
「ねぇねぇ。やっぱりあのスライムって、あの子が使役してるんだよね?もしかしなくても、史上初だよね?」
「……そうね。将来有望かもね」
「ア、アリスが笑った…!?これはもしかして、いや!これまたもしかしなくても……!」
なにやら不敵なげふんげふん、素敵な笑みを浮かべる者。
「―――ま、まぁ。所詮はスライムだろ?大したことないって」
「それはどうだろうな」
「えっ?」
「魔物使いには確か、同じ魔物同士を合成して強くする専用スキルがあったはずだ。スライムといえども、化ける可能性はあるぞ」
「うぇ!?じゃあ、あの子どもは将来やべぇ奴になるかもしれないってことか!?」
「それはあの少年次第だろう。だが……ふっ、面白くなりそうではあるな」
「マジかよ……」
好奇な視線を送って来たり、なにやら畏怖の念を抱いてる者。
とにかく色々な反応がギルド内で起こっていた。
なんか気持ちいいな、こういう反応されるの。僕に出世欲はないけど、出世して一旗揚げようとする人の気持ちがわかった気がする。
―――こんな視線を向けられるのは妙に心地よく、病み付きになる。
「ドヤー」
「調子に乗らないの…」
「乗ってないよ。今日は散々な目にあったからね。あんな目に合わないために、調子に乗って怪我しないよう気を付けるよ。昨日言った通り、無理せず気ままに頑張るよ」
「ならいいんだけど…」
サナにそう言って、未だに信じられない物を見ているかのような様子の受付嬢さんの所まで行く。
「すみません!魔物使いのホープです!冒険者登録をしに来ました」
「―――ぷるん(おう嬢ちゃん。オイラは悪いスライムじゃないぞ)」
僕は元気よく、そう言った。
強い人はどんなに最弱と呼ばれる人に対しても敬意を払い、しっかり評価するイメージ。
アニメだったらここでOPなんだろうな~って思いました。
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