眠いから寝る
剣と魔法の世界、エスペランザ。
かつてこの世界は魔物の王、すなわち“魔王”の手によって支配されていた。
人とも動物とも言えぬ禍々しい生物、“魔物”を操り、魔王は己の欲望のままにエスペランザを混沌へと誘った。
夥しい数の魔物、魔物の影響により蔓延る疫病……そうして瞬く間に破壊されて行った日常…。
当時の人間たちには、それに抗う力が無かった。ただ怯えて、滅びの時を待つしかなかった……はずだった。
しかし!我らが神は人類を、世界を見捨ててなどいなかった。
僅かな抵抗も許されぬ人間たちを哀れに思った神は、人間たちに魔物に対抗する力を与えた。
人間たちはその力を“御業”と名付け、魔王の軍勢を押し返し、見事エスペランザを救ったという。
しかしそれは、ほんの一時に過ぎなかった。
未だに魔王は健在し、世には悪しき魔物が蔓延り、人間たちはその侵攻を受けている―――――――
―――――――――――――――――――――――――――
「故に!諸君らはこれから与えられる御業を存分に発揮し、魔王軍に苦しめられている人々を救い、この1000年続く戦いを終わらせ、世に真の平和をもたらしてくれることを期待している!」
……話が長過ぎて眠くなってきちゃったな…。
……あ。思わず欠伸が出ちゃった。
ここ、エメロン大聖堂にて、エメロン王国国王、エメロン王の演説に集められた新成人の皆が真剣な表情で聞いている。
そんな中、僕は欠伸を嚙み殺しながら不真面目な態度で聞いていた。
(だってあんまり興味ないし。魔王とか、世界とか…)
エメロン王の言う通り、エスペランザ全体で魔王軍と呼ばれる魔の軍勢に脅かされている。
でもそんなのは微々たるものらしい。魔王軍との戦いでは、御業のおかげで常に人間側が全勝してると聞く。ただ魔物の数が尋常ではない為、攻めあぐねているとも。
(まぁ全勝は言い過ぎだと思うけど。町一つを蹴りだけで全壊させる魔物もいるなんて噂もあるし)
流石に噂に尾ひれが付いただけの物だろうけど、それくらいヤバい魔物がいてもなんらおかしくないと個人的には思ってる。
ドラゴンとかその筆頭になりかねないし。蹴りじゃなくてブレスだろうけど。
「この話を肝に銘じ、皆“御業の儀”に臨むのだ」
あ。ようやく終わったっぽい。
王様が壇上から降りていき、神父さんが御業の儀を執り行うようだ。
「では、これより御業の儀を行います。ナギの村出身の者から順番に――――――――」
ああ。そういえば御業の儀もすごい長いんだった…。
前の席の方から呼ばれてるみたいだ。
僕が座ってるのは後ろから来た二番目の列。今年の新成人は約1万人で、一ヶ月に渡って御業の儀が行われる。その度に同じ演説をするエメロン王は凄いと思う。政務は大丈夫なんだろうか?
今回儀式を行う人は300人弱。やはりエメロン国全土からやってきている為、結構な数だ。これは相当待たされる。
「……よし。寝よう」
「「「!?」」」
僕の順番はかなり先だ。エメロン王の演説のせいで眠かったし、ちょうどいい。
どうせ名前を呼ばれるだろうし、それまでおやすみなさーい………ZZZ
「「「本当に寝た!?」」」
瞼を閉じて寝入った僕に周りがざわつくが、僕は気にせず夢の世界へ旅立った。