〇女先生
今日の俺、朝から散々すぎるだろうが.......。
何だよこれ。
「ねぇ、修二くん? 先生はこの目でしっかりと見たのよ。朝からあんな人目の少ない路地裏で絵梨花さんと何をしていたの? あなた達はそう言う関係? 別にそういう関係なら、ゴホん、た、例え外とは言え、先生は百歩譲って何も言う事はないの。 さぁどうなの!? 別に隠すことはないわ。恋愛は恥ずかしいことじゃないもの! せ、先生もこう見えて数えられないほどしてきたんだから! ほ、本当よ」
「いや、そういう関係ではありません」
全くない。あるわけない
ないけど。それにしてもこの人、やっぱりスーツが壊滅的に合わないよな。
本当に壊滅的に......
「そ、そう言う関係じゃないのに、あんなに密着して!? な、何をしてたの! も、もしかしてあなた、やっぱりあのまま先生が声をかけなければ絵梨花さんを襲おうと!?」
「いや、それこそありません。絶対に」
おい、やっぱりって何だよ。やっぱりって
しかも襲うって.......
てか、何だよこれ。
いきなり担任に呼び出されたかと思ったらコレだよ.......。
むしろ俺は被害者だぞ......。
ありのままを説明しようとは思っているけど、何かさらにややこしいことになりそうな雰囲気がぷんぷんする......。
「そ、そうよね。先生は修二くんがそんなことをする子じゃないのはわかってる。わかっているからこそはっきりさせておきたいの!」
もう嫌だ.......。
今年から教師になった新人の先生って聞いてたけど、完全に空回りしちゃってるよ。この先生......。
今、思えば入学式の後のホームルームから完全にとばしてたっけ......。
『私の名前は洋上優華! 初めに行っておくわよ。声や背の高さは関係ない。先生はあなた達の先生なの!先生! さぁ皆ついてきなさい! 最高の高校生活を一緒に送りましょ! 何でも相談してくれていいからね! 明日へときめいて、夢にきらめくのよ!』
ものすごく可愛いアニメ声で、ものすごく背の低い女性が教壇でガッツポーズしていたっけ。確か。
そしてついたあだ名が幼女先生。
それはもう一瞬での命名だった。本当に一瞬での。
新人にしてこの学校の教師に採用されるだけあって、見た目に反して頭はものすごく良いらしい。
本物の天才と言っても過言ではない程に。噂ではアメリカのものすごいエリート大学を飛び級で卒業したこともあるとかないとか。
って、それにしてもその天才が何でだよ......。
何か、涙腺に涙をためて半泣きになっている気が......
い、いや本当に何でだよ。泣きたいのはこっちだよ。
ほ、本当にこの人は先生? というか大人なの....か?
って、ん? 飛び級?
い、いやさすがにな。
さすがにそんなことがあるわけない。あってはならない。うん。
ないない。
それにしてもおい。せめてドア閉めろ。閉めてくれ。
廊下を通り過ぎていく生徒や先生がこっちを見るやいなや、ものすごくいたたまれない様な表情で通り過ぎていく.......。
ち、違うぞ。俺は何もやってない。
ただでさえ疑われやすい顔なのに入学早々もうすでに案の上やらかした奴みたいな目で見られていくじゃねぇか。
お、おいマジでおい
「ほら、先生に全部打ち明けなさい。どんな言葉が例え聞こえてきたとしても先生必ず受け止めるから」
い、いや、そんな震えに震えたアニメ声ではどんな言葉も聞こえて来ねぇだろ.....。
大丈夫か、本当に大丈夫かよこの担任。
た、例えあったとしても絶対に受けとめられる気もしねぇ......
ポテッてすぐ転んで泣いてそうだぞおい......。
「あのー、とりあえず絵梨花もここに呼んでもらえますか。それが一番早いと思うんで........」
うん。もうそれしかない。それしか。
「修二くん。駄目。今のあなたにはまだあの娘には会わせられない。一旦落ち着いて。話はそれからよ。落ち着いて」
いや、アンタが落ち着いてくれ.....。
あぁ、駄目だこれ.......
これ駄目なやつだ。