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二度目の出会い

 侯爵邸でのパーティーは流石の規模で、会場にも狭さは感じない。

 それでも頭ひとつ大きい彼の姿は、他よりは見つけやすい。

 とはいえ、ノウから声をかけることはできないし、父もその気はないようだ。

 今日紹介されたのは、十五歳以上年の差のある貴族たち。

 以前よりは年齢差が少ないが、それでも相当な年上ばかりだ。

 今回選ばれた彼らにも、勿論理由がある。

 かれらは様々な事情から、正妻を置けずにいる者ばかりなのだ。

 さっきの男は加虐趣味があるという噂だし、こちらの男は市井に女性を囲っている。

 加虐趣味の彼は、頑丈でないノウでは遊び甲斐がない、と却下され、この男は──

「条件としては文句はないんですが……」

 飾りの妻でも不平をこぼさないこと、それなりの社交と領地の切り盛りができること、子供を望まないこと──

「いくら置いておくだけといっても、どうせなら……」

 値踏みするような視線は、何度も経験してきたものだ。

 どうせなら、少しでも美しいほうがいい、と言いたいのだろう。

 よくもぬけぬけとと思うが、言い返せばあとが恐いので黙っておく。

 ノウを妻にすれば一時的に世間から高評価を受けるだろう、可哀想な娘をわざわざ妻にした、という意味で。

 しかし、それは本当に一過性で、その後の実りにつながりにくい。

 今夜はことごとく不発に終わり、父は苛立った様子を隠しもしない。

「目障りだ、さっさとどこかへ消えていろ。……ああ、いや、公爵令嬢に媚を売るのを忘れるな」

「……かしこまりました」

 頭を下げてから、エリジャのもとへむかうと、彼女はいつもどおり歓待してくれた。

 少しの間お喋りを楽しんだが、どうしても視線はアルフラッドのほうへいってしまう。

 今日も囲まれているようだから、さぞ疲れていることだろう。

 ──と、一瞬、視線がこちらをむいた気がした。

 勘違いかもしれないが、どうせそろそろエリジャの前からは失礼しようと思っていたところだ。

 ノウはエリジャにその旨を伝えると、時間をかけてゆっくりと、庭へ続く廊下へ出る。

 緊張のためか、心臓がいつもより速度をあげているのが感じられた。

 彼はたしかにまた、と言った。けれどお世辞の可能性もある、いや、実直そうだったから本気なのでは……いくつもの考えが浮かんでは消えていく。

 落ちつこうと深呼吸をしていると、扉の開く音がした。

 慌ててふりむくと、そこには予想どおりの人物──アルフラッドがいた。

「やあ。今夜も庭へ連れて行ってもらっていいかな?」

 屈託なく笑う彼に断るつもりもなく、はい、とうなずけば、先日のように腕を貸してくれる。

 侯爵邸は樹木が多く、自然な雰囲気が自慢らしい。

「……視界が悪くならないようになっているのは、凄いな」

 アルフラッドがそんなふうに呟いた。

 よくわからずに返答を迷っていると、ほら、と指で示される。

「一見すると見通しが悪いようだが、きちんと巡回の兵士が見えるだろう?」

「あ……本当ですね」

 勿論隠れる場所もあるだろうが、きっと想像以上に少ないのだろう。

 軍にいた彼らしい気づきに感心してしまう。

 ノウは鬱蒼とした感じが少し恐いと思ったくらいだった。

「今夜もずいぶん囲まれていましたね」

「ああ、しばらくは珍獣気分を味わえるな」

 やれやれと肩をすくめる姿に、小さく笑ってしまう。

「君……あなたも、ずいぶんあちこち連れ回されていたようだが、大丈夫か?」

 気遣わしげに問いかけられて、少し驚いてしまう。

 こちらを見ている様子は感じられなかったのだが、流石元軍人、なのだろうか。

 大丈夫です、と答えてから、思い切って言葉を添える。

「喋りやすいように話してくださって、かまわないですよ?」

 貴族としてはよろしくないのは承知しているが、誰かくれば本人がわかるはずだ。

 どこか喉にひっかかった物言いをされるより、普段どおりのほうが気楽だろう。

 貴族然とした口調のほうが苦手意識があるために、ノウとしてもいいような気がしたのだ。

 アルフラッドは流石にしばらく躊躇していたが、やがて、それなら、と呟いた。

「警護だのもあったから、できないわけではないんだが……どうも堅苦しくてな」

 そうでしょうね、と相づちを打つ。彼はそういう場が苦手らしいことはよくわかる。

 その調子ではなにかと苦労しそうだが、と、少々心配になってしまうくらいだ。

「ところで、君が会っていたのは年長者ばかりだったが、理由でもあるのか」

「……よく見ていましたね」

「職業柄、……前職柄だな」

 やはりそうか、と納得する。

 さりげなく周囲を観察するすべに長けているのだろう。

 隠し立てすることでもないので、すなおに教えることにする。

「結婚相手を探しているんです」

 だから色々な男性に会わされています、と添えると、不思議そうな顔になる。

「それにしては、ずいぶん年の差がないか?」

 たしかに、ノウが紹介されている相手は上は六十、下でも四十いくつばかりだ。

 あまり興味がないので、ざっくりとしか把握していない。

 彼らの資産だのの情報はそれなりに頭に入っているのけれど。

 総じてなんらかの資産を持つか、上にコネがあるか──そういった者たちばかりだ。

「同年代のかたは大体婚約が決まっていますし……傷のこともありますから」

 言葉を選んで紡いでいくが、腑に落ちない表情をしている。

 それにしても差がありすぎると言いたいのだろう。

 一般的に考えればもっともな話だ。

「どのかたも父にとってはとても……価値のある、かたなので」

「……それは、君にとっての価値ではないだろう」

「ええ、ですが、わたしはまだ結婚に親の承諾が必要な年齢なので」

 その瞬間、アルフラッドが悟った表情になる。

 この国において結婚は、一定の年齢になるまで、親の許可がなければすることができない。

 それは子供を守るという建前もあるが、貴族にとっては政略結婚をさせやすいという理由による。

 その年齢を過ぎてしまえば、二人だけで手続きをしても問題なくなるのだが、大抵その前に親の介入が入る。

 ノウは結婚適齢期をやや過ぎているが、それでもまだ勝手に結婚できる年ではない。

 だからこそ父は、今のうちだと相手を絞りこみに入っているのだ。

「しかしそんな相手ばかりでは、流石に外聞が悪いだろう」

 あまりに目に余るものは、上のほうからやんわりと声がかかることもある。

 普通ならば、ノウと六十過ぎの男性との結婚も、注意されることだろう。

 勿論無視することもできるが、そんなことをすればコネをつくりたい貴族からも白い目で見られる。

 それは父にとって避けたいところだが、抜かりはないのだ。


 ──娘は傷を大層気にしていて、自分でも見たくないと泣くくらいなのです。

 ──加えて身体も弱く、子を産むという大仕事をさせるのはあまりにも酷というもの。

 ──そういう心配のない相手と、穏やかに不自由なく過ごしてほしいのです──


 ……というのが、対外的な父の言葉だ。

 すべてが嘘というわけではない、傷に関してはかなり事実と言えるだろう。

 それらの理由を見破られない傷心の表情で嘆かれれば、それ以上続ける者もいない。

 所詮は他人の事情なのだ、親身になる必要はどこにもない。

「しかしそれでは、君の幸せはどうなるんだ」

 憤りを隠せない様子に、優しい人間だなと感心する。

 会って間もない人間相手に、本気で心配しているらしい。

「不幸、というほどでもありません」

 驚いた顔をするアルフラッドに、なぜなら、と続けた。

「少なくともわたしは、ここまで生きてこられましたから」

 もしも、普通の町民として生まれていたら、事故のあとの手当ても満足に受けられなかっただろう。

 それどころか、そのまま捨て置かれた可能性すらある。

 すいません曜日間違えてました……

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