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騒がしい夕食

「とりあえず、夕食までゆっくりするか」

 寝る時のことはとりあえず後回しにしたらしいアルフラッドの言葉に、否はないのでうなずく。

 いつものようにナディと共に荷物を出し入れしようとしたが、疲れのせいか、どうもうまく動けない。

 結局、ここ数日で勝手のわかってきた彼女にまかせきりになってしまった。

 椅子代わりにベッドに腰かけて、ナディの様子を見て、時折口を挟んでいく。

 それも咎めるものではなく、どちらにするか選ぶという程度だ。

 すっかりノウの世話に慣れたらしく、手際も大分よくなっている。

「ついでに、少し横になったらどうだ?」

 概ね終わったところでカーツの部屋に行っていたアルフラッドを呼ぶと、そう提案される。

 夕食まではまだ多少時間があるのは事実で、心配からの言葉なのはわかるのだが。

「……今眠ると、起きられる気がしなくて」

 食事もせずに朝まで寝そうで、それは流石にまずいだろうと思う。

「む……そうか、君を起こすのは気が咎めるしな……」

「あたしもちょっと無理な気がします」

「……いえ、そこは気にせず起こしてくださっていいのですけど……」

 二人からしみじみされてしまい、つい突っ込みを入れてしまう。

 とはいえ、体調の悪い自分を叩き起こすのはやりづらいという意見ももっともだ。

 だから起きていますと重ねると、じゃあ、とアルフラッドがベッドサイドのノウのそばまで机を移動させた。

 机の上には、アルフラッドのものらしい筆記具が置いてある。

 そして、すわるぞ、と声をかけると、返事も聞かずにノウの横に腰かけた。

「ならせめて寄りかかっているといい、また膝でもいいし」

 先に言えば断ると知っているからこその行動だろう。

 今日の襲撃に関して文書にしておくのだという。

 書きあがるまで動く気はないのだろう、強引だが、不快ではない。

「お言葉に甘えます、……ナディさん、本をとってもらえますか?」

 だから反論はせずに、すなおに優しさに甘えさせてもらう。

 見るともなしにページをめくりながら、隣から聞こえる音に耳をすませる。

 予想以上に綺麗な文字が、一定の速度で綴られていく。

 過去に副隊長で、今は領主だ。立場上、報告書をしたためることは多いはずだ。

 心地よい音を拾いつつ、数時間前が嘘のような、ひどく穏やかなひとときがすぎていった。

 女将から指定された食事開始時間を少しすぎたころ、メモを書きあげたアルフラッドと食堂へ移動することにした。

 階段を降りて廊下を進むと、賑やかな声が聞こえてきた。

 どうやら、かなりの人数が食堂に集まっているらしい。

 外からの客も入れているらしいので、それ自体は不思議なことではない。

 ノウ一人では気後れしてしまうところだが、慣れている二人がいるしと食堂に通じるドアを抜ける。

 そこには、おおよそ予想通りの光景が広がっていた。

 程々の大きさの室内はひとで溢れて、何度目かわからない乾杯がされている。

 しかし驚いたのは、その中心にいたのがテムやハーバルだったことだ。

「ノウ、こっちだ」

 おろおろしていると、アルフラッドに促される。

 端のほうを通って厨房に近い場所へ行くと、そこにはカーツがいた。

 すぐ近くでは、女将がせっせとつまみをつくっている。

 彼女はノウたちに気づくと、手招きをして、目立たない場所に席を用意してくれた。

「男どもが話を聞きつけてこの騒ぎだよ、うるさくてすまないね」

 つまりこれは、盗賊を討伐した勝利の宴というわけだ。

 それなら、対外的には連中を倒したのはテムたちだから、主役として中央にいるのも納得できる。

 女将としては、きちんとした商売人の姿をしているカーツとその息子夫婦を、こんな馬鹿騒ぎに混ぜる気はないらしい。

 ここは騒いでいる面々からは見えづらい位置になっていた。

「ちゃんとアンタたちの分はよけておいたからね」

 女将は言いながらどんどん大皿を机の上に置いていく。

「遠慮しないで食べとくれ。すんだらそっちに置いておけばいいから」

 食べ終わった食器を置くところらしき窓のような場所を示される。

 これからまだまだ料理や酒の用意をしなくてはならないのだろう。

 すでに付近には、空になった酒樽がいくつか置いてある。

「忙しくさせてしまって、申し訳ないですね」

 カーツが詫びると、女将は豪快に笑って首を振った。

「儲けさせてもらうから文句はないさね。それに、盗賊には参ってたからねぇ」

 街道沿いではないので、旅人がほとんどこないこの村は、基本的に自給自足の生活をしている。

 ここで手に入らないものは、定期的にやってくる行商人から購入していたが、盗賊が出るようになり、危険だからと値上がりしていたのだという。

 仕方のないことだし、きてもらわなければ困るのだが、長く続けば家計に響く。

 しかし、主たる街道ではないために、討伐依頼をしたものの、優先順位が低いとされてしまった。

 そんなわけで、大きな打撃ではないが、地味に積み重なってきていたところだったらしい。

「だから遠慮しないで食べておくれ」

 しめくくると、酒の追加を叫ぶ男に大声で返事をして去って行った。

 それならばありがたくいただこうと、食事をはじめることにする。

 あまり食欲はなかったが、なるべく食べやすそうなものを選んで、どうにか口に運んでいく。

 食べなければますます調子を悪くするのがわかっているからだ。

 幸い女将は料理上手なようで、予定外の宿泊だったがアルフラッドたちもおいしそうに食べていき、大量の料理は見事になくなった。

 四人の食事が終わっても、どんちゃん騒ぎは続いている。

 迂闊に声をかけて、あの中に引きこまれてはかなわないから、と、カーツも我関せずを貫いていた。

 女将に言われたとおりに食器を置くと、三人はさっさと部屋にもどろうとする。

 ノウ一人残るわけにもいかないし、言葉を発して聞きとがめられても困るので、おとなしくついていった。

「では、お休みなさい」

「ああ」

「お休みなさい」

 挨拶を交わしてカーツが部屋に入ると、ノウとアルフラッドも割り当てられた部屋へもどる。

 ナディに手伝ってもらうことはなさそうなのでそこで別れ、いつものように馬車で眠るために下へ降りていった。

「あの……アルフラッド様、テムさんたちは大丈夫なんですか?」

 きちんと扉を閉めたことを確認してから問いかける。

 念のため、誰かが聞いてもさほど不思議ではない言葉になるよう注意した。

 彼らは、放っておけば夜通し騒いでいそうな雰囲気だった。

 明日には出発の予定だが、支障が出るのではないかと心配になる。

 しかし、喜んでいる村人に水を差すのも気が引けてしまう。

 アルフラッドはベッドのほうへ座るよう促し、自分は小さな椅子に腰かける。

 彼の長身には大分窮屈そうだが、気にした様子はない。

「問題ない、ああいう状況には慣れているからな」

 自信満々に断言されてほっとする。

 軍時代、作戦が成功したあとなどは、しばしばああいう宴会になったらしい。

 ハーバルたちは軍を経験してはいないものの、領内警備で似たようなことはあったらしく、問題ないとのこと。

「薦められるままに飲めば二日酔いになるが、気づかれないよう量を減らしたり飲むフリをしたりしているんだ」

 なぜなら、酒の中になにかが混入していることもあったから──とは、言わずにおく。

 余計なことを言って、不安がらせるのは無意味にすぎるからだ。

「ああ見えて喋っていいことと悪いこともちゃんと把握している。ボロを出すことはまずない」

「流石ですね……」

 尊敬します、と呟くノウはとても素直だ。

 勿論、そう信じているから発言したのだが、仮に失言をしたなら、その時は過酷な特訓を課すつもりでもある。

 領主になってからも何度か敢行したことがあり、内容を知っている彼らは、そうそう愚行は犯さないはずだ。

「あいつらのことはそこまで心配しなくていい、君はまず、自分の体調を第一にしてくれ」

 アルフラッドの言葉に、そのとおりだと反省する。

 完全回復はかなわなくとも、まだ続く旅をなんとかしのげるように、回復させなければならない。

 そのためには休息が必要なわけだが──後回しにしていたベッドの問題が浮上する。

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