1話-祈りを捧げて
「異世界の神様、どうか俺の願いを聞いてください。この世界に未練はありません。異世界に行かせてください!なんでもしますから!」
はあ。
深いため息をつき、高校を卒業してから寝る前に欠かさず行なっている祈りをすませ、何の神様かも分からない神様の写真を飾っている棚の前から離れて窓の外を眺める。
もう20歳か…。
もう…20歳…か。
あああああああ!年取るわー!
高卒で就職してサラリーマンをしているが、生きる事につまらなさを感じている。
ボーっと窓の外を眺めながらゲームの世界、読んでいる漫画の世界で生きていけたら楽しいんだろうなー、なんて考えていると、一緒に住んでいる猫が足に擦り寄ってきた。
「よしよし」と言いながら抱き抱える。
にゃーにゃーと言いながら甘えてくる。
「ププ、俺が異世界に行ったら一緒に来てくれるか?」
ププは俺の顔をジッと見ながら「にゃー」と返事をした。
これは来てくれるって事かな、なんて思いながらププを撫でる。
「さて、そろそろ寝るか」
ププを下ろしてベッドに向かう。
仕事で溜まっていた疲れもあり、布団に入るとすぐに寝てしまった。
「…さい…きな……い!」
なんかうるさいな。
「おきなさい!」
バチィン!
「いった!」
「やっと起きたわね!」
状況が飲み込めずジンジンする右頬を押さえて目をパチパチさせていると、目の前には、白髪で金色の目をして、全身真っ白の服を着ている人が「あなたの願い叶えてあげる」と言った。
「願い?」
「そうよ、あなた女神である私に祈りを捧げてたじゃない。毎日毎日異世界に行きたい!って。だからこの私が管理している世界にあなたを招待してあげるの」
「え…ほんまに?」
「もちろん」
「っしゃあああああ。勝ち組やー!で、どんな世界なん?魔法とかあんの?冒険者とかは?モンスターとかは?」
「落ち着きなさい。魔法…あるわよ。冒険者…もちろん。モンスター?たっくさん!まあ、実際に見て世界を知りなさい。あなた20歳よね?向こうだと成人が16歳だからあなた16歳で送るわね」
へぇ、成人が16歳とか魔法、冒険者、モンスター…異世界臭がビンビンや!
「あなたは貧弱すぎるからある程度身体強化はしておくわね」
「誰が貧弱や!それより頼みがあるんですけど、俺の家族を連れて行くことは出来ませんか?」
「家族?」
「はい、ププって名前の黒猫です」
「うーん…あなたと暮らしてるメス猫よね?...そうね、あなたの魔法って事にして許可します。なんせそろそろ魔王の目覚めの時期だし」
「え?」
最後の方が聞き取れなかった。
「許可しますって言ったのよ。気にしないで!じゃ、早速ゲートを開くわね」
女神が指を鳴らすと白く光るドアが出現した。
「おお…」
「そのドアの前に立って自分の名前を言い、ドアを開けなさい。そうすればあなたは住む世界が変わるわ」
「橘隼人行ってきます!」
ドアノブに手をかけ勢いよく開く。
俺は白い光に包まれた。