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初めての贈り物

 クリスマスイブの夜が明けて翌朝になりました。

 和くんはぱっちりと目をさますと、仰向けのまま、枕もとに手を伸ばしました。何か固い箱があります。そして、何か大きなものが入った紙袋もあるみたいです。


 お布団の外は寒かったけど、和くんは思い切ってベッドの上に起き上がりました。ぐるんと体を入れ替えて、枕もとの小さな棚の上を見ました。


「わあっ、ヴァルハラグナーだ!」


 固い箱は、秋からテレビで始まった、新しいシリーズに登場するヒーローのおもちゃでした。黒と金のカラーリングで、コートの襟とブーツの折り返しにあしらわれた毛皮もしっかり再現されています。メイン武器のヴァルハラアックスも入ってて、箱はずっしりと重みがありました。


 さて、こっちの大きな袋は何でしょう?


 和くんは袋の口をとめてある、緑色のシールをはがしました。開けると、中には――


「ウサギさん……!」


 おばあちゃんのところへお使いに行ってくれた、ウサギさんがそこにいました。フェルトの靴も、赤い胴着も、デンキカリバーもそのままです。

 和くんは思わず小さな叫びをあげました。袋の中からウサギさんを引っ張り出して、ぎゅうっと抱きしめました。


「帰ってきてくれたんだね……」


 お空の上はとても遠くて、郵便屋さんも行き来できません。ネットだってつながってません。だから、おばあちゃんのところに行ったらウサギさんはもう帰ってこれないんだろうなと、和くんはちょっとだけあきらめていたのです。


 でも、ウサギさんは帰ってきました。帰ってきたのです!

 

 手を伸ばして、パパが高い高いをしてくれる時みたいに、ウサギさんを持ち上げました。持ち上げてみているうちに、和くんは不思議なことに気が付きました。


 古くなって汚れていた毛皮が、きれいになっているのです。色があせてしまって、新品の時のようにキラキラしてはいませんが、黒ずみが取れてふわふわです。それに、なんだかいい匂いがします。

 糸がゆるくなってちょっとぶらぶらしていた大きな黒玉のお目々もしっかりとひとところに据わっていますし、手足やお腹はきゅっと膨れ上がって引きしまっています。まるで、新品になったみたい。


「ウサギさん、どうしちゃったんだろ?」


 和くんはわけがわからなくなって、ウサギさんを上向きにしたり逆さにしたり、くるくると回しながら隅から隅まで確かめました。あの悪い博士が変装していたりしたら、大変ですから。


 すると、ウサギさんの胴着の内側から、小さな封筒がポロリと落ちました。お手紙みたいです。


 それは――おばあちゃんからのお手紙のようでした。



=====================================



 和くんへ


 お知らせありがとうね。赤ちゃんが生まれるときいて、おばあちゃんはとてもうれしいです。

 そして、和くんがおばあちゃんのことを忘れずにいてくれたこと、ウサギをずっとかわいがってくれたことも、ね。

 

 ウサギさんはちょっとくたびれていたので、魔法で若返らせておきました。

 サンタさんがおうちまで送ってくれるはずです。これからも大事にしてあげてね。 


 パパとママによろしく。赤ちゃんをかわいがって、みんなで仲良く暮らしてください。

 おばあちゃんはお空の上で、ずっと和くんたちをみまもっていますよ。


                        おばあちゃんより



 ついしん:


 本当はパンケーキにしたかったけど、遠いところなので冷めてしまうとおもって、クッキーを焼きました。みんなでたべてね。


=====================================


 袋の底にはセロファンに包まれたクッキーが入っていました。きれいなお砂糖の飾りが、まるで霜が降りたようにキラキラとかかっていました。


 和くんはもう、胸がいっぱいになって叫びました。


「おばあちゃん! ありがとう! サンタさんありがとう!」


 ママとパパが、ちょっと泣きだしちゃった和くんを、優しく抱っこしてくれました。 

 でも、パパのパソコンの横に「ニシワキ手芸工房」と書かれた小さなメモ用紙が置いてあるのには、和くんは気づきませんでした。



          * * * * * * *



 それから半年くらい経ちました。ママのお腹がだんだん大きくなって、七月のある日、ちょっとした大騒ぎでみんなで救急車に乗って病院に行った後――

 和くんたち一家は、赤ちゃんと一緒にお家に帰ってきました。


 「(うみ)」ちゃんと名前が付けられた、丸々と太ったかわいい赤ちゃんが、いまサークルベッドの中ですやすやと眠っています。



 ヴァルハラグナーがお城の守りに加わって以来、このところずっとホコリ避けの布をかぶってベビーたんすの上にいたウサギさんを、和くんはよいしょと抱きかかえて赤ちゃんのベッドまで運んできました。


「おや和くん、ウサギさんを連れてきたの?」


「うん。あのね、僕決めたんだ。ウサギさんを、洋ちゃんにあげるの」


「そうか。もう、いいのかい?」


「うん! ウサギさんには、これから洋ちゃんのお友達になってもらうんだ」


 ぼくはもうお兄ちゃんだからね。これからは洋ちゃんをよろしくね――


 サークルベッドの枕元に、ウサギさんが――ウサギ将軍が、でん、と座り込みました。


(まかせておけ)と言ってるみたいな気がしました。



 それが和くんから洋ちゃんへの、初めての贈り物でした。

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