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ウサギ将軍の大冒険

 三人の騎士たちは、今日はお城の中庭にいました。このところ竜たちがおとなしいのです。

 塔の見張りは、ちょっとだけ兵士たちに交代してもらいました。


 黒い騎士が言いました。


「ウサギ将軍、今頃どのあたりかな。太后さまがいらっしゃるのは、空のずっと高いところだそうだが……」


 赤い騎士は左肩のあたりに時々手をやっては、そこになにもないことに気が付いて照れ笑いをしています。


「まあ、俺のデンキカリバーが一緒だ。何があっても大丈夫だぜ」


「あなたの剣は、電気がなくてもむちゃくちゃ斬れますからね。将軍なら使いこなせるでしょう」


 青い騎士がそういって、赤い騎士に親指を立ててみせました。



「さあ、特訓を始めるぞ。将軍がいない間は、竜どもが悪あがきをして大きくなっても、俺たちだけでやらなきゃあならないんだ」


 三人は、もう何度も見た将軍のウサギさんキックをありありと頭に思い描きました。


「空中で三回キックを繰り出せなくてもいい。俺たち三人で一回づつ攻撃するんだ!」


 黒い騎士が号令をかけます。三人はひとかたまりに集まると、いっせいに山側の城壁めがけて走っていきました。



         * * * * * * *



 ウサギ将軍はまずお城の裏手にある高い山を登り、その頂から雲の上へと跳びあがりました。


 雲の上は白くてふわふわで、頭の上には真っ青なお空があります。ところどころに氷のかたまりが浮いているのを足掛かりにして、ウサギ将軍はぴょんぴょんとリズムをつけて、飛び跳ねて進み始めました。


「こんな広いところに出たのは初めてだ、気持ちがいいなあ」


 風が少し冷たいですが、ウサギ将軍の黄色い毛皮は、こんな風ぐらいへっちゃらでした。


 やがて、雲の大きな切れ目が見てきました。切れ目のすぐそばまでたどり着くと、将軍は腕を組んで足元の大穴をのぞきこみました。

 すごい眺めです。真っ青な海が広がって、そのほんの端っこに、陸地と小さな小さな家やビルで出来た街並みが見えました。


 さすがのウサギ将軍も、これを飛び越えることはできそうにありません。


「ううん、これは困ったなあ。だけど下界はよく見える。和くん(王子さま)の家はあのあたりかな?」


 和くんのことを考えると、将軍はちょっと元気を取り戻しました。

 切れ目の縁に沿ってずっと遠くを眺めていくと、ずうっと南の方で、雲はまた一つにつながっているようでした。あそこまで歩いていけば、とにかく渡ることはできそうです。


「あんまり時間がかかると、赤ちゃんが生まれる前に大后さま(おばあちゃん)に報せをお届けすることができなくなってしまうぞ。でもとにかく、ここで止まっているよりはいいだろう。なに、そのうち上手い思い付きがわいてくるかも知れんさ」


 ぴょん、ぴょん。ぴょんぴょこぴょん。氷から氷へと、ウサギ将軍は走っていきます。


 しばらく行くと、ハトが一羽氷の上で休んでいました。足には銀の輪をつけて、首から銀の筒を提げています。それは、スマホもパソコンもつながらない不便なところから大事な知らせを運んでいく途中の、勇ましい伝書鳩でした。


「クルクル、こんなところでウサギなんて珍しいな。しかも黄色いウサギだと。大きな剣まで腰につけて、いったいどこまでいくんだね?」


「私がお仕えする王子様に、妹がお生まれになるのだ。お空の上にいらっしゃるおばあ様、大后さまのところへ、その報せを届けに行くよう仰せつかったのさ」


「なるほどね、クルクル。じゃああんたと僕はおなじ仕事の仲間ってわけだな、僕も手紙を運んでるんだ」


「おお、そうなのか」


 二人はそれですっかり打ち解けて、しばらく話に花を咲かせました。


 ハトは自分を育ててくれた飼育係のことや、レースで優勝したときの誇らしい思い出、それに今運んでる手紙がどれほど大事かという自慢話を。ウサギ将軍は、作られてこの方ずっと一緒にいた和くんがパパママ思いの優しい子であることや、和くんが繰り広げる空想のお話の楽しさについて。


 そうして話が途切れると、二人は目の前にある雲の切れ目をのぞいて、ひゅう、と口笛を吹くのでした。


「お前さんは羽根があるからこんな切れ目なぞわけもなく飛び越えるのだろうな。うらやましいことだ」


「それほどでもないさ。それに僕には僕で一つ、困ったことがあってねえ、クルル」


「おや、どうしたんだい?」


「この切れ目を渡る途中に、大きなワシが住み着いててね。通ろうとすると、通行料を払えっていうんだよ。ばかばかしい話さ、伝書鳩が通行料なんか持ってるわけがないじゃないか、クルックルー!」


 ウサギ将軍はなるほど、と思いました。和くんも幼稚園で、年長組の大きな子に意地悪をされることがあったのです。


「そういうやつは、ただ意地悪がしたいだけなのだ。よし、私がそのワシをこらしめてやろう」


「クルクル、ホントかい!?」


「ああ、このデンキカリバーでお尻をペンペンと二回も叩けば、ワシなんてあっという間に降参だ」


「よし、それじゃあ僕はウサギくんを乗せて、この切れ目を渡してあげよう」


 軽い気持ちで「ワシをこらしめる」と言ったものの、本当にそんなことができるのかと、ウサギ将軍はちょっと不思議に思いました。

 だって、ハトの体はウサギ将軍より一回り小さいくらいで、とうていその背中に乗ることはできそうになかったのです。


「心配ご無用! この通信筒の中に入るんだ」


 ハトがふたを開けて、中を覗き込むように言いました。ウサギ将軍が言われたとおりにすると、まあ不思議! 将軍の体はしゅるしゅると縮みながら銀の通信筒に吸い込まれていくではありませんか!


「これでよし、あのワシが住んでる大きな氷の塊のところまでついたら、この筒を開けるから、後は頼んだよ! クルルッポー!」


 そういうと、ハトはウサギ将軍を筒に入れたまま、パッと翼を広げて元気よく飛び立ったのです。

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