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小さなお城のウサギ将軍

 小さなお城がありました。


 人が登れないほどの高い頂にぶあつい雲をたなびかせ、ふもとに暗い洞窟をかかえた大きな大きな山を背にして、そのお城は建っていました。

 お城の南側には、枯れかけた草におおわれた広い広い草原がありました。


 小さなお城は小さいけれども、とても大事なお城でした。ですから、守りについているのは、王国でも一番の勇者たちです。


 順番に一歳ずつ年の離れた、不思議な力を持つ三人の騎士が、草原に面した三つの塔をそれぞれ守っていました。

 塔から塔へとめぐらされた城壁の上には、四角い体に丸いヘルメットを着けた、疲れることを知らない兵士たちが油断なく見張りに立っていました。


 そして。


 城壁に囲まれた中庭には、ウサギ将軍が大きな体をでんと据えて、両足を前に投げ出し腕を組んだ、いかめしい姿で今日も座っていたのです。


 


 そこが大事なお城なのには、わけがありました。草原のむこうには闇に包まれた岩だらけの土地があって、そこからは毎日のように、小山のような体を揺すって恐ろしい竜たちが攻めてくるのです。


 守りについた兵士たちと三人の騎士は、それはそれは勇敢に戦います。兵士たちは竜の突進に跳ね飛ばされたり、大きな足で踏まれたりしながらも、手に持った槍で竜を次々に突いて怯ませます。この国のお妃さまは偉大な魔法使いで、兵士たちが決して死ぬことがないように、魔法をかけているのです。


 兵士たちが頑張って竜を食い止めていれば、やがて塔から騎士たちが駆けつけてきます。黒と赤、それに銀の馬よろいを付けた大きな馬が唸り声をあげて駆け抜け、騎士たちは手に手に魔法の光を帯びた大きな剣を、斧槍を、そして銃を構えて竜に立ち向かうのです。


 竜が炎を噴いても、騎士たちはやけど一つ負いません。

 大きな尻尾で跳ね飛ばされても、それで鎧が脱げてしまっても、血のにじんだ顔で、にっこり笑って鎧をつけなおして、また立ち上がります。


 そしていよいよ竜が最後の悪あがきをして、さっきまでの何倍もの大きさになった時には――ウサギ将軍の出番なのです。


「将軍、将軍! お出ましください、竜のやつ、大きくなるつもりです」


 ――どおれ、私に任せておけ。


 頼もしい言葉とともにウサギ将軍が立ち上がり、ふわふわの毛皮が風にさあっとなびきました。城壁の上へ大きくジャンプして、くる、くる、くる、と三回転。

 

 ――くらえ、ウサギさんキック!!


 どこか可愛いらしいところのある声が上から響き、騎士たちは固唾をのんで戦いの行方に目を凝らしました。


 ばん! どかん! ごいん!


 恐ろしい音と、目にも止まらない動き! そしてウサギ将軍のウサギさんキックは、キックと言いながらも、三段目以降の決めワザが体当たりと頭突きでした。


 竜は地面に長々とのびて動きを止め、お城中に歓声が上がりました。


 ――三騎士万歳! ウサギ将軍万歳!!



「ふう、今日も、勝った勝った」


 一番年上の黒い騎士がそういってしゅわしゅわと音を立てる飲み物をあおりました。


「ああ、俺たちは無敵だぜ。だけどこう毎日じゃ、さすがにちょっと飽きる」


 二番目の赤い騎士がそういって、テーブルの上にべったりと突っ伏しました。


「この国の王様のところには、なんだかすごいロボットが何体も並んでいるっていうじゃないか。あいつら、たまには応援に来てくれないもんかな」


「いやいや、それは無理でしょう。あのロボットたちは王様の秘蔵の宝物ですし、何か大きな戦いのために備えているのだそうですから」


 一番年下の青い騎士は育ちのよさそうな言葉づかいで、赤い騎士の知らない秘密の事情について話しました。


「ふむ、結局この小城には、俺たち三人もいれば十分というわけだ」


「じっさい、十分じゃないですか」


「ああ。それに我々にはウサギ将軍がついていてくださる。みろ、あの年季の入った毛皮と戦いにすり切れた耳を――」




 その時です。

 どこか遠くから、声がしました。


「和くん、ご飯にするよ。おもちゃを片づけて、手を洗っておいで」


 ――はあい。


 国境のお城はあっという間に消え失せて、少し傷の入ったカラー積み木の山になりました。ブロックの兵士たちは槍を置いて箱の中に整列し、騎士たちはそれぞれのディスプレイ・ケースに戻りました。背中に大きな背びれを背負った火を噴く竜は、三段重ねの収納ボックスの上へ。


 そうして、ウサギ将軍は――和くんが大好きだったお祖母ちゃんの、額に入った写真が置かれた、小ぢんまりとしたベビーたんすの上にそっと戻されたのです。

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