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報酬とこれから

 ――その後。


 俺は再び、ランの扱う魔法で驚愕することとなった。

 今回驚かされたのは、瞬間移動の魔法ではない。

 ヴォーマさんがどこからともなく料理を取り出したのと同様の魔法であり、これは収納魔法と呼ばれているらしい。

 だが、その収容能力たるや……。


 なんとランは、死体と化した竜の周囲を魔法で歪めると、その死骸を丸々と消し去ってしまったのである。

 これには、俺もシールさんもド肝を抜かされた。

 何しろ、殺してしまった以上食うなりなんなりして活用せねばならないが、まさか全てを持ち帰るわけにもいかぬと二人して頭を悩ませていたところだったのである。


 やはりこれもすごい魔法だったのだろう――掛け値なしに褒めそやすシールさんはもとより、俺も心からの賛辞を贈ったものだったが……。


「別に、そんな大した魔法じゃありませんよ。

 ……私、役立たずでしたし」


 彼女は頬を赤らめながらも不機嫌そうにそう言い、ぷいとそっぽを向いてしまったのであった。

 これには、俺とシールさんも顔を見合わせたものだ。

 そんなこと言ったらシールさんなんてガチで見てただけなんだが、そこら辺をおもんばかれる心境でもないのだろう。

 気にすることないと思うんだけどな。直感だが、俺がどれほど努力したところで身に付けられぬ領域の技だと思うし。


 まあ、ともかく不機嫌そうなランとちょっとばつが悪そうなシールさんと共にお城へ瞬間移動で帰還したわけなのだが、その後に城の人々が見せた反応はといえば劇的なものであった。


 ――さっき討伐を引き受けた連中がもうそれを終えたと言いだす。


 常識にうといっぽい俺ですら常識外れと判断できる報告をするシールさんに対し、彼らが見せた反応は最初、実に冷ややかで不快なものであった。

 だが、実際に――驚くほど広く地面が整備された――城内の広場でランが竜の死体を取り出した時、それは一斉に驚きと賞賛のそれへと変わったのである。


 ――ある者は、初めて間近で見る竜の死体をまじまじと観察し。


 ――またある者は、素直にこれを称える。


 ――中には胆力が足りないのか、腰を抜かしてしまう者までいた。


 ともかく共通しているのは、あれだけあなどった態度を取っていたザピーラ様に対しくるりと手のひらを返し、口々にその判断を賞賛していることだろう。

 まあ、それが心からのものかと言われれば疑問は残るけどね。

 その表情は良く取りつくろっていると言う他にないが、それでも表情筋の歪みや挙動にわずか見られるぎこちなさから作り物であると判じられるのだ。


 ともあれ、のん気にそれを観察している暇などなかった。

 何故なら、彼らによる攻勢――いや口勢と呼ぶべきか――は、実際にこれを討伐した俺たち三人にも容赦なく向けられたからである。

 正直に言って、何を言われたものかはよく覚えていない。なんか色々と遠回りで難しい言い回しを多用していたし。

 ただ一つ確かなのは、言葉の裏に……そう、気持ち悪さを感じたということろう。


 托卵(たくらん)する鳥類や、卵を寄生させる昆虫類が悪意を持っていたならこのように感じるだろうか……。

 これまでに出会った生物が持っていなかった感情……おそらく人間だけが持ち得ると直感できるそれらには、少しばかりへきえきしたものである。

 シールさんが上手いこと間に入って取り持ってくれなければ、俺は不快感からさっさとこの場を後にしていたかもしれない。


 そのように、いっそ猛獣の相手をした方が気楽な時間を過ごしたのち……。

 俺たちを待ち受けていたのは、論功行賞の儀であった。


 すでに竜の死体はランがしまいなおし、場所を謁見の間へと移している。

 並んでいる顔ぶれも最初ザピーラ様に謁見した時と同じであるが、あの時と違うのは何らかの使い走りと思わしき人々が分厚い紙の束を両手に端々を行き交っている点であろう。

 ちょっと失礼して自慢の視力で書かれている内容を見てみたのだが、何やら色んな数字が踊り狂っていることくらいしかわからん。

 ただ、書かれている数字の桁は知識としてしか知らぬくらいに大きいものであった。


「こほん」


 ザピーラ様が咳払いし、騒然としていた謁見の間が静まり返る。


「まずは、『炎鳥の羽』の二人よ。

 急な話であるゆえ、略式の儀となることを許せ」


 俺たち三人は膝を付き押し黙ったまま、特に返事をしない。

 何か必要な事があるならランかシールさんが言ってくれるだろうし、俺に至ってはそもそも略式じゃない儀がどんなのか知らなかった。


「……うむ」


 沈黙は肯定ということなのだろう。

 ザピーラ様は玉座で満足そうにうなずき、続く言葉を放った。


「お前たちがこたび見せた働きを金子(きんす)のみで推し量るのは無粋というものであるが、そこな拳士の希望がそれであったゆえ、今回はそれにてむくいようと思う。

 ――異論はないか?」


 異論はないかと聞いているが、要するに決定事項を確認しているだけなのだろう。

 やはり、沈黙にてその言葉は肯定される。


「よろしい。

 ――ニゼ、後を続けよ」


「はっ!」


 多分、この人が名を呼ばれたニゼさんなのだろう。

 着ている衣装こそこった作りなものの、本人はそれに負けている印象が強いやせ衰えた老人が一歩進み出た。


「略式の儀でありますがゆえ、結論から申し上げることをお許しください。

 過去に、『炎鳥の羽』……先代の同ギルドが果たした同様の事例を元に、現在の貨幣価値から概算いたしました」


 冷や汗をかきながらそう告げるニゼ老人へ、慌ただしく駆け回っていた使い走りの一人が一枚の紙を手渡す。

 どうやら彼らがいそがしくしていたのは、この解を導き出すためだったらしい。


「ひゃ……ひゃ……」


 そこまで言って、ニゼ老人が激しくどもりだす。

 ちょっと心配になるくらいの様相であったが、さておき俺は内心安堵していた。


 ――百万ゴルドか。


 ランと折半(せっぱん)しなければならないからその半分ということになるが、これでも借金返済へ大きく前進だ。

 結果的に必殺技まで使うことになった今回の仕事だったが、あの美味しい食事と同等の価値があるとすれば妥当なところだろう。

 そんな風に考えていた俺であったから、次の言葉には大きく驚くことになったのである。


「百億ゴルドが、妥当かと……!」


「へ?」


 思わずマヌケな声を漏らしてしまったが、聞きとがめる者はいなかった。

 なんかこう、予想していた額と桁がいくつか違うんですが……?

 そういや先に謁見した時、ザピーラ様が「一億でも十億でも」と言ってたっけ?

 だが、それと比較してもやはり桁違いである。


 これには沈黙を保っていた人々も、再びざわめきだす。

 それはそうだろう。

 百億と言えば、あの美味しい食事に換算して一万回分ということになる。

 仮に一日三回食べたとして、実に十年は食っていける計算だ。

 ……どう考えてももらいすぎなんじゃないだろうか?


 たっぷり百か二百は数えられる間、人々は様々なことを言い合っていた。

 平然としているのは玉座に座るザピーラ様と俺たちの隣で眉一つ動かさずにいるシールさんくらいで、ランなどは全身に脂汗をかき焦点の定まっていない目できょろきょろと周囲を見回している始末である。

 うん、やっぱりお前の視点で見てももらいすぎなんだな。


「静粛に」


 これは辞退を言いだすべきかと思っていた矢先、ザピーラ様が静かな声でそう言い放った。

 それによって、再び謁見の間が静寂を取り戻す。


「懐疑的に見ていた者もあろうが、こたびの働きを見ればそこな拳士がもはや伝説となった拳聖チャンハ・チーの孫であることは疑いようもない。

 また、先ほどの収容魔法を見れば、そこの魔法使いが大魔女ヴォーマの秘術によって素性を探れぬよう秘匿されていた孫娘であることも疑いようがない事実である。

 祝え! 拳聖と大魔女の技がその孫たちへしかと受け継がれていたことを!

 そして、最強の冒険者ギルド『炎鳥の羽』が、次なる世代の手によって復活したことを!」


 たちまち、謁見の間が万雷の拍手によって包まれる。

 人々は爺ちゃんやヴォーマさんの名前、そして少しこそばゆいが俺の名前を連呼し、『炎鳥の羽』が復活したことを大いに称えたのであった。


「そして、『炎鳥の羽』が復活したことはある事実を意味する」


 十分な間を置いてそれを見届けたのち、ザピーラ様が重々しくそう切り出した。

 そして彼女の視線が俺とランをとらえたのだが、その瞬間、背筋に感じた悪寒といったら……。

 竜にすら感じなかった絶望の気配が錯覚でなかったことは、次の瞬間に証明されたのである。


「他でもない。

 ……先代『炎鳥の羽』が、次世代に払わせると確約していた膨大な借金をそこの二人が背負ったという事実だ」


「へ?」


「え?」


 今度は、俺のみならずランさえも間抜けな声を漏らした。

 聞き返したいところであるが、口を挟む間もなくザピーラ様が先ほどのニゼ老人へ視線を向ける。


「ニゼよ。

 ……それで、先代が残した借金はいかほどになるのか?」


「――はっ!

 ……それが、件数額ともにあまりに多く先ほどから概算(がいさん)させてはいるのですが、なかなか結論が出ない有様でして」


「良い。

 では、こたびの報奨金で支払いがあたうかどうかのみ答えよ」


「まるで足りませぬ」


 さっきまでのどもりっぷりはどこへやら……。

 こればかりは無情かつ簡潔にニゼ老人がきっぱり答える。

 へへ、俺なんだかすっげえ嫌な予感がしてきたぞ!


「チャンハ様がかつて起こした数々の破壊行為および無銭飲食……。

 魔法実験のためと称し、ヴォーマ様が国へのツケで購入した数々の器具及び素材……。

 不可抗力だった面も多々あるため減額したとしても、竜種を百や二百葬った程度ではまかなえぬかと」


「……うむ」


 そこまで聞き、ザピーラ様が満足げにうなずいた。


「新『炎鳥の羽』の二人よ。聞いての通りだ。

 こたびの報奨金は、そのままそっくりお前たちの先代が残した莫大な借金の返済へ当てることとする。

 ただ、それだけではあまりに不憫ゆえ、百万とんで二万ゴルドのみ今回は渡すこととしよう。

 ――係官!」


「――はっ!」


 ザピーラ様に命じられたお兄さんが、何やら革袋の乗せられた銀盆を手にうやうやしく前へ進み出る。

 そして俺たちの前でひざまづき、銀盆を目の前へ差し出した。


「受け取るがよい」


 ザピーラ様に言われて見やれば、銀盆の上には革袋の他に金とその他諸々の合金で作られた丸い板が二つ乗せられている。

 おそらく、これもお金なのだろう。

 とりあえず革袋を受け取り、裸のお金はランと一枚ずつ受け取った。


「借金の件があるゆえ、今後お前達には様々な依頼を課すことになろう。

 ――期待しているぞ」


 そして、なんか一方的にザピーラ様から期待を寄せられ……。

 論功行賞の儀は終了となったのである。




--




 数日後……。


 あれだけ閑散としていた『炎鳥の羽』ギルドハウスは人でごった返し、壁の掲示板は種々様々な依頼を書きつづった紙で埋め尽くされることとなっていた。

 それだけならば繁盛している冒険者ギルドの姿ということになるらしいが、それら通常の冒険者ギルドと大きく異なるのは、張り出された紙に大きく書かれているのが報酬額ではなく借金の天引き額であるという点だろう。

 そう……。


 ここに訪れている人々は、ただの依頼人ではない。

 先代がこしらえた莫大な借金を仕事という形で支払わさせるべく訪れた、取り立て人たちなのである。


「ふふ、商売繁盛で何よりね。

 ――昔を思い出します」


 隅の方でお茶を飲みながら、ヴォーマさんが懐かしげにそうつぶやく。

 ちなみにだが、彼女から背負わされた借金の百万ゴルドは何よりも先に返済した。


「昔を思い出すついでに、お婆ちゃんも借金返済に協力してくれませんかね……?

 というか私、お婆ちゃんが借金してるなんて初耳でしたよ」


「あらあら、だって聞かれなかったのですもの。

 それにこれも、かわいい孫娘へ課す修行ですよ?」


 ランが憎まれ口をたたいてもそんなのは垂れ下がった布を腕で押すようなもので、笑って返されるばかりである。


「まあ、気長にやるしかないさ」


 俺は諦めの吐息を漏らしながら、壁に貼られた依頼の数々を見やった。

 求めるのは、できるだけ強いやつと戦えてかつ、天引き額の多い仕事だ。


 一刻も早く強くなって借金を返済し――あのジジイをぶん殴りに帰るために!

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