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ウラヌス潜航せよ

帝国軍の艦隊が来た。ウラヌスは静かに潜航する。たった1艦で迎え撃つのだ。

奇妙に静かな艦だった。


乗員は寡黙で、艦内はすべて薄いラバーで覆われていた。


「この艦は行動、目的、あらゆるものを秘匿されている、いわば幽霊船なのだ。われわれも幽霊というわけだな」

ダイス大佐は穏やかな顔で言った。潜空乗りはみなこういうものと、彼は言ったが、確かにこういうタイプの乗員はアゾレアにはいない。確かにいないが、チアが戦闘空機を墜として帰って来た時、みなが静かに握りこぶしをチアに向けた、そんな熱さは感じていた。


機関長のウイザードと仲良くなった。チアがたまたま潜り込んでいたエンジンルームに彼が来た。


「なにやってんだ?」

「ああ、これが危なかった」チアがバルブの破損部品を取り上げている。

「ほう?」

ウイザードがみると、数百あるバルブの一個が外れていた。

「何で分かった?」

「音だよ」

「音?」

「うん。機械が嫌がっている音」


「うわははははは」

ウイザードは機関長として長くこの艦を見てきた。いままでこんなことを感じたことも、考えたこともなかった。ましてやそんなことを言うヤツも。


「嫌がってるのか、こいつは?」

「うーん、そうね、痛がってる、かもね」

「そうか。こいつはたまげた」


ほっとけば連鎖的にバルブは吹っ飛んでいた。沈みはしないが、致命的なものだ。航行不能。死んだも同然なのだ。


仲良くなってから、チアの暴走は止まらなくなった。


「ねえ、これなあに?」


はやくアゾレアに帰って欲しい。ダイス大佐は正直そう思っていた。静かな艦内に嵐が来ているようだった。いまは仲良くウイザードと艦内を探索しているらしい。



「あー、第6艦隊の駆逐空艦あさなぎに搭載する予定だったアクティネーターだ。やっこさんが沈んじまったんで宙に浮いてるんだ。まったく邪魔くさい」ウイザードは迷惑そうに答えた。


「え、じゃあ、持ち主はもういないの?」

「まあ、そういうことになる。この空域を離脱したら廃棄するのさ」

「ファラ怒るわよ」

「仕方がない。つけられる艦がいない」

「この船は?」

「は?]

「この艦にはつけられないの?」

「ま、まあつけられるが、考えもしなかったな」

「じゃあ、つけちゃおう」

「は?」


それから機関兵いや、手すきの乗員総出で取り付け作業を行い、なんと8時間ですべてを終えた。


「信じられん」ウイザードは唸った。


「あんたたち、すごいじゃん」


チアに褒められた乗員はそのまま死んでもいいような面をしていた。これは、本当の女神(ビーナス)なんだな、とウイザードは思った。


「感。2-4-2.敵です」

「深度2000。無音航行」

「探しています。ソナー来ます」


一つ目のソナーは外れた。しかしいつまでもつか。


「3艦いるな?」

「いえ。後方に大きな機影、6。分析します」


「艦隊です。駆逐空船、高巡洋それも高機動。そして空戦母艦それぞれ3」

「なんでこんなところに」

「われわれの進行方向。アゾレアがいます」

「そういうことか」


「艦内乗員に告ぐ。艦長のダイスだ。現在われわれは敵の勢力圏内に入りつつある。敵の目標はアゾレアだ。われわれはこのままやり過ごすことができる。だがわれわれの任務はなんだ?敵を殲滅することだ。そのための羊なのだ、われわれは。従順な羊たる妥協なき諸君がわれとともに、そして神とともにあらんことを」


「エーメン」艦内に声が響き渡った。


敵の駆逐空戦艦はマニュアル通り散開し、索敵をはじめた。


「音紋解析。諸元データ入力」



魚雷(スカイフイッシュ、6番まで。装填」

「アイ、サー」


「全魚雷発射。回避コース1-2-0、高度2000ダウントリム」

雷跡が空に浮かぶ。


永遠に続くと思われた時間。しかしそれも破られる時が来た。


巨大な物質が破壊される音。空戦艦が1艦墜ちた。


「敵空戦団はジャミング飛行に入ったようです」

「マニュアル通りというわけか。いいだろう。本物の戦闘をみせてやろう。転舵、空戦母艦の後ろにまわる」

ダイスはペリスコープを瞬時に覗くとすぐにそう判断した。


「3番まで装填。発射」


さらに大きな爆発音が響いた。



「駆逐空艦リューリックに続き、空母ソシア沈みます」

「どこからだ」

「後方からきました」

「駆逐どもを後ろにまわせ。巡洋艦は空母を守れ」

新型高高空機動巡洋攻撃艦エルメスの艦長モルゲンは焦り始めた。


「空戦機出しますか?」

「邪魔になるだけだ」



「空戦機出てこないようですね」

「マニュアル通りということさ。われわれは1艦なのだ。艦隊はスイープし、空戦で索敵させなきゃな。相手は素人だ」

「駆逐、通過します」

「通過と同時に全魚雷発射」

「アイ・サー」


再び雷跡が空に浮かぶ。前回よりさらに大きな音が響く。


「巡洋と空母です」

「まあまあだな」

「敵駆逐空艦1艦が反転」

「雷跡を読まれたな。まともなのもいるらしい」

「爆雷、きます」


ズン、と響く音。次の瞬間、大きな衝撃波が来た。

「続けるぞ。魚雷装填」

「艦長、もう危険です」

「やめるわけには、いかないんだよ。全魚雷、発射」



「2時の方向、雷跡。空母アサギ、巡洋シュパーギン喰われます」

「駆逐ロキシーが空母の巻き添えに」

「くそ、空母がみな喰われた」


巡洋攻撃艦艦長のトーマス准将は歯噛みした。



「爆雷、来ます。近い」


轟音とともに衝撃波が艦を揺さぶり、艦内の照明が消えた。辺りは火花が散っている。


「艦長が負傷したっ。衛生兵を」

「各ブロック、損害報告(ダメージリポート)を」

「電磁シールド損傷、艦が丸見えになります」

「艦長は?」

「頭部を打っています」

「くそ」

副官の江島大尉が厳しい表情になる。


「左門?おい、左門っ」

チアが叫んだ。左門が倒れている。かなり出血もしているのだ。

「死ぬな、おいっ、目を開けてくれっ」

チアが揺り動かすのを江島大尉が止めた。

「大丈夫だ。骨が折れてるが、命に別状はなさそうだ」

「ほんと?」

チアが笑顔で言った。美しい。

戦闘中だが、江島大尉はこんな美しい表情をする人間を見たことがない、と思っていた。


「あ、ああ、すぐ直るさ。衛生兵、医務室へ」


江島大尉は深刻な事態を受け止めるべく、艦橋に立った。

艦長は意識がない。艦も丸見えになった。もはや標的の何ものでもない。撃沈されるのは確実となった。


「お客さんたちは脱出艇で離脱してください」

唯一、考えられる最良の方法だった。


「待って、あなたたちは?」チアが言った。

「われわれは艦とともに」

「あきらめるの?」

「まあ、あと1艦ぐらい道連れにできればいいんですが」

「じゃあ、あたしにやらせて」

「なにを、ですか?」

「うふふ、操艦」

「え?」

ブリッジにいた全員が驚いた。もちろんイエーガーとトビーもだ。


意識が戻っていた左門がかすれた声で何か言うのを、衛生兵が聞いた。

「やめさせ、ろ」

「?」

衛生兵には何のことだかわからなかった。


どうせ沈むんだ。シスターズと一緒に。光栄以外の何ものでもない。江島大尉はそう思った。

「どうぞ、お好きに。操舵手、交代してさしあげろ」

「うっひっひっ」

悪い笑いをうかべながらチアは操舵手の席についた。


「ウィザード。アクティネーター始動するわよ。準備いい?」


機関室でチアの声を聴いた機関長のウィザードはあわてた。何すんだ。なんでこんなもん今使うんだ?大気圏離脱用じゃなかったのか?


ウィザードはおおきな勘違いをしていた。チアは空を早く飛ぶ。誰よりも早く飛ぶことしか考えていない。


「全員なにかにつかまれーーーっ」ウィザードはあらん限りの声で叫んだ。


アクティネーターの作動パネルが全点灯する。エンジンが暴走を始めるのだ。


もの凄い加速が始まる。


ああ、これで逃げられる。江島大尉はそう思った。ここにも勘違いする者がいた。チアは自分の空を犯すものを許さない。それがたとえ巨大な戦闘空艦でも。


ロールして反転した。高速で。敵も味方も、こんな運動をする艦を見たことがない。戦空機のようだ。


「ねえ、魚雷撃たして」

「え?あ、はい。装填。全弾だ」

もはや混乱の極にあった江島大尉はチアの忠実なしもべ、いや奴隷となっていた。


「ひゃっほーーっ。直接照準。2発撃って」

「1番2番発射」


駆逐空艦シオドリの艦長、歴戦の勇士オーリスは異様な光景を見ていた。高速で飛ぶ潜空艦がロール回頭し、自分の艦に向かってくる。そして魚雷を放つ。避けられないじゃないか。そう思った瞬間、目の前が暗くなった。


逃げると思った敵の艦が高速で反転し、駆逐空艦を沈めた。実際に目にしてもあり得ない光景だった。

巡洋攻撃空艦フォンテーンの艦長モラリスはとっさに回避行動をとることを考えた。が、思考が敵の艦より遅かったのだ。艦尾に2発の魚雷を食らった。

「あれは何なのだ」最後の言葉になった。


「全砲門開け」

「照準が間に合いません」

「適当に撃て」

「ロックできなきゃ粒子砲は撃てません」

「不便なもんだな」

帝国軍最高の新型高高空機動巡洋攻撃艦といわれたエルメス艦長モルゲンは、無力感に襲われていた。


「降参だ」

「は?」

「敵艦に通達。降伏する。攻撃をやめてくれ。そう打電しろ」


エルメスが停船した。


「あれ?どうしちゃったの、あいつ」

「降伏するようです」

「ちぇ、つまんなーい」


さっきまで女神だと思っていた。ちがう。こいつは悪魔だ。やっぱりシスターズだったんだ。江島大尉は身震いしながら考えていた。これから辛いエレベーター酔いが始まるとも知らず。


凄まじい速度でエルメスの舷側に横付けする。見ていた乗員の何人かが気絶した。モルゲンも顔を引きつらせていた。

「だれか来るようです」

「お迎えしろ」


恐ろしいスピードで連絡艇が着艦した。3名が降りてくる。1名は走り出す。あちこちを飛び回っている。なんなんだ。


やがて艦橋に2名が入って来た。ひとりは帝国軍のパイロットらしい。


「はじめまして。火星機動潜空軍大尉の江島です。こちらは帝国軍を亡命されたイエーガー少佐」

「エルメス艦長のモルゲン少将です」

「戦時規定に基づき、貴艦を鹵獲いたします」

「了解しました。乗員の安全をお願いします」

あの娘を乗せた以上、安全はあるのかな、とイエーガーは思った。


「ねえ、この艦すごいよー。パワーが半端ないわ」

どたどたと艦橋に入ってくる少女がいた。


「どなたです?」モルゲンが訝しがる。


「はあ、彼女は」

「こんにちは。あたしはチア。チア・ロシュテン。ねえ、この船操縦させてくれない?」

「あー、チア様。戦時規定でそれは禁止されております」江島は嘘を言った。

「えー、そうなのー?なーんだ、つまんない」

「あの、どういうことでしょう?」

「ロシュテン少尉はさきほどわが艦の操舵をされてました」

「え?」

「彼女はシスターズのチア様。またの名を銀翼のウェヌスとおっしゃられます」


モルゲンはこの空域に来たことを後悔した。帝国軍全兵士が恐怖とともに語られる名。その名の主が目の前にいるのだ。

イエーガーは震えるモルゲンに同情した。


「あ、アゾレアだ。みんないる」


戦空母艦アゾレアを中心に高空機団が近づいて来る。チアが誰よりも早く見つけたのだ。


駆逐空艦ゆうなぎが来た。ブリッジでファラが舌を出している。


軍人やめようと、イエーガーは思った。








チアの信じられない操艦でウラヌスを救った。チアは自分の空を守るため戦う。

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