エピローグ
「よっしゃ! クリアできた!」
布団と小さなテーブルのみが置かれた六畳サイズの部屋に男が一人、小さなテーブルに置いてあるパソコンに向かって叫んでいる。パソコンの画面には、桜が舞う中で多田峰恵乃が頬を染めながら何かを言っているようなイラストが映し出されている。右下にはENDと表記されており、男が言った「クリア」がこのことを指しているのがうかがえる。
男はパソコンゲームをしていた。ゲーム名は『キミと春夏秋冬! 七色学園生活!』で『キミナナ』の愛称がある恋愛シミュレーションゲーム。主人公である橋本翔太の高校生活三年間での恋愛模様が描かれており、多くのファンから愛されている大人気ゲームだ。攻略キャラは西園寺椿、榎木ひまり、楸千尋、橘柊彩の四人がメインであり、その他にも攻略可能な期間は短くなるが部活の後輩や生徒会長の先輩なども攻略できて、メイン以外にも多くのキャラとの恋愛が楽しめる。そのため、エンディングが百数種類も存在するので、コンプリートするのに時間がかかるゲームとして有名だ。
そんなキミナナだが、多田峰恵乃も攻略キャラとして存在している。ただし、三年間で多くの隠された条件をクリアし、告白する前で多田峰恵乃に背中を押される場面で「私だったらよかったのに」と言ってもらうことで、はじめて攻略ができるようになる。しかし、これら条件のほとんどがランダムで発生するため、難易度が非常に高い。また、条件をクリアした次の周でしか攻略できず、失敗してしまうとまた最初からになってしまい、再び条件をクリアしなければならないので、多くのプレイヤーが途中で諦めてしまった。そのため、プレイヤーたちからは幻のような存在と言われている。なので、男が叫んでしまうのも無理もない。
「さてと、次は誰にしようかな」
男はカチッと画面をクリックしてトップ画面に戻り、『はじめから』をクリックする。
多田峰恵乃が大学生になれたのはエンディングの演出のため。他のエンディングでは大学生となった彼女が登場することはなかった。だから大学生になれなかった。そして、彼女のエンディングは大学の入学式から帰る場面で終わる。そして、男が『はじめから』をクリックしたということは……。
ループはまだ終わっていない。