テラサカさんと収縮する僕
テラサカさんが僕の手を握っている。
「さあ、もどりますよー!」
優しい幼稚園の先生のようにテラサカさんは僕に微笑む。
僕は手をめいいっぱいのばしてテラサカさんと手をつないでいて、テラサカさんは僕にあわせて腰をかがめてくれている。
さっきまで外にでたくてしかたなかったんだけど、今は僕もたのしくなってテラサカさんに手を引かれながら部屋の奥へすすんでいる。
部屋はけっこう広くて、ちょうど幼稚園の体育館くらいある。お遊戯をするところだから、けっこう広い。僕はそのスミの電気がついてないほうにテラサカさんと一緒にすすんでいく。
「なんか忘れているような」
「僕は外にでたかった気がする」
「でもなんでだっけ」
すすんでいくにつれて、なにかを思い出しそうで、でも思い出せない。
気づけばテラサカさんは腰をかがめてなくて、僕はテラサカさんと同じくらいの身長になっていた。
部屋の奥へ奥へとすすむ。すすむごとに僕の体は成長していく。髪がのびて、髭がのびて、喉仏もでてくる。その髪に白髪が混じる頃、僕はさきほどひっかかっていた忘れていることをもっと思い出してきた。
僕はテラサカさんの手を振り払い、部屋の奥と反対へと走る。そこには出口があって、出口は光っていて、僕を阻むものはいない。テラサカさんは「まったくもう」という表情を浮かべているだけで追ってこない。思い出した。
僕はこれを、もう何百万回も繰り返してる。
「こいつから逃げなきゃ」
「ここにいちゃだめだ」
「ここからでなきゃ」
でも、僕の身体は出口に近づけば近づくほど、なんでか若返っていく。そうだ。僕は何度もこんなことをしている。でなきゃ。逃げなきゃ。でもなんで。なんのために。つかれてきた。だんだんと僕の足取りはゆっくりになっていく。あれ、なにやってるんだっけ。
「さあ、もどるわよー」
テラサカさんのやさしいこえが聞こえる。
僕は手をつないで、テラサカさんといっしょに部屋の奥へとすすむ。テラサカさんは優しく僕に微笑んでいて、僕もうれしくなって笑顔になって部屋の奥へズンズンすすんでいった。