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魔力

作者: 藤堂 豪

 きっと俺、凄いんじゃないだろうか?


 大友は自分の身に起きた近頃の出来事を鑑みてフト思った。例えば一昨日前の会社帰り。それ迄降り続いていた雨が大友が社屋を出た瞬間、ぴたりと止んだ。更にその二日前には契約が一気に二本も獲得出来た。営業マンとしては嬉しい限りの話だ。しかも金額は社に百万単位の利益を齎す物が一挙に二つ。更には昨日は朝、出勤前に白い蛇に突然出会った。大家さんの趣味でガーデニングだらけの大友のアパートに突如舞い込んだらしい。したら、朝階段を登った時突如突風と共に列車風が同時に吹き、俯き加減で階段を登っていた彼は、風に驚き顔を上げると階段を登り終えそうになった目の前のOLさんのパンチラが思わず眼に入った。黒のレースだった。その時列車風なので当然電車が来て、それに飛び乗ったら、そのOLさんのすぐ近くに立ってしまった。したら、痴漢をしようとするけしからん輩がいて、そいつを黙って取り押さえた。西亜細亜の人だった。目の前の座席が空いたので座る事が出来た。したら、今日日発刊のプレジデントが落ちていた。前の人がどうやら忘れていったらしい。その中で書いてあった事を営業、プレゼンで話したら、契約が纏まる所迄こぎつけた。今日は今日で、おうし座、A型の彼の運勢は1番だった。偶然締めたネクタイは今日のラッキーカラーだ、ってんで、ニコニコしていたら、宝籤、スクラッチが当った。千円だけど。新橋に美味しいカレー屋を見つけた。妙に社の女の子から受けがいい。………ラッキーだらけじゃん。何かあるなぁ、近頃の俺。


 そんな阿呆な事を考えていながら今日日を過ごし夜道を歩いていたら、いきなり大友の眼前に眩いばかりの光。何事だ?そう思ったら、単なる車のハイビームだった………


 ドカン!!


 車はいきなり大友の横を突っ込んできた。幸い彼はかすり傷と避けた瞬間に軽く足を捻っただけで済んだ。車は急ブレーキを掛けた。幸い周囲には誰もおらず、何もなくて傷を負ったのは大友だけだ。しかも軽症だ。どうやら猫が飛び出したらしく、車は猫を避ける為にハンドルを切ったらしい。慌てて運転手を席から出したら、昨日のOLさんだった。しかも何気に美人。ここで口説いちまえや、そう思いつつこんな偶然ってあるのだろうか?訝る大友、怪しくなる大友、それでもこれは自分に魔力でも急に付いたからかもしらん、などと更に阿呆な勘違いを彼はしつつ、動揺している彼女を助けた。そうしてその晩は彼女の車を大友が運転し、彼女を家迄送り届けた。極めて紳士的な応対でやり過ごしたので、彼女も信頼を寄せてくれたらしく、電話番号を一応事故だから、と教えてくれた。


 やっぱりラッキーじゃん。

 そう思って今晩ウキウキしながら、足が疼くのを冷湿布を貼り眠りこけた。


 その翌日………一応足は捻ったが何も無いから安心しなさい、という旨を彼女に伝えたら、食事に招待された。これからその食事に赴く大友。何かある、何か俺には魔力的な何かがある、そう自分で勘違いをしたまま、食事に赴き、そうして鱈腹喰って呑んで目の前には美人、しかも彼女の奢り、そうは言っても女性に金を出させる訳には行かぬと自分で飯代を払ったらば、彼女も些かホロ酔い気分で、そのまま………まさにラッキーラッキョウ漬け。これは何かの間違いじゃないだろうか、何度も自問自答しながらシャワーを浴びながら考えた。痴漢を防ぎ、事故も防いだ。恩義を感じてくれるのは嬉しいが………確かに嬉しいが………いいのだろうか、と。結論、まあ、いいじゃないか、そう思った。理性と欲望、どっちが勝ったか、勿論欲望が勝ってしまってそのまま彼女と一晩を過ごした。どうやら彼女も喜んでくれたらしい。それはそれで嬉しいのだが、何だかトントン拍子じゃね?危なくね?増々疑問を抱くようになった。けれどもそんな疑問は杞憂だとすぐに判り、あの事故と痴漢騒ぎがキッカケで2人は仲睦まじい関係をより深めていった。


 それから一年後。


 大友は殆どの財産を失った。彼女がしていた証券取引で、見事に摩ってしまい彼も金を差し出したが最後、彼女は大友が止めるのも聞かず、また証券取引に精を出し始めた。今日日の株なんて博打と一緒なのに。博打は絶対に胴元が儲かるように出来ている、と広沢虎造や清水次郎長も言っているのに………借金の連帯保証人になってしまった大友。お陰でスッカラカンになってしまい、オマケに彼女と些細な事で喧嘩になり、借金の事もあった大友、ブチ切れて彼女と音信不通になってしまった。気付けば大友は自分にはある、と根拠の無い魔力を今は感じられずに居た。こんな情け無い三十二歳、男として魅力があるのだろうか。そうして謂れの無い借金迄背負わされて。ある訳が無い。仕事は確かに順調だが、それとていつどうなるのか、判りゃしない。先を考えると大友は酒に頼りたい気持ちが増幅し、クンクンにバーで酒を呑みまくって絶望した。したら、横で呑んでいたのは彼女と見知らぬ男。くそう、大友は更にぶち切れて、そうして彼女の近くに立ちはだかって、そして………


 絶望に暮れて大友は白い部屋の壁ばかりを見ている。金を貸した相手に浮気され、借金取りから夜逃げ同然で部屋を移し、そうして今は何も無い部屋でただ1人、孤独と絶望ばかりが込み上げる。情けの無い自分、情けの無い阿呆………こんな俺に救いがあるのだろうか、そう思いながら救いの無い現実を知れば知る程、早く首を括りたいと思うようになって………首を括った。その瞬間見えた一筋の光、それは大友を苦しみの無い世界に導いてくれるに違いない、そこにはまだ見ぬ自分の中に潜む魔力があるのかも知れない、そう思ってその光の中に大友は行くと………


 そこにはまた、更に白い壁。

 ここは病院………どうやら助かってしまったらしい。

 無断欠勤をした大友が気になった会社の上司が彼を病院に運んだのだ。


 大友は病院のベッドの上で白い壁を見ながら、どうしてこうもまぁ、人生は続くのだろう、そんな事ばかりを思っていた。


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