刀剣男子と恋する乙女2
「ひ、緋色さん?」
聞き慣れた澄んだ声が頭上から降ってきて、僕は反射的に顔を上げる。
「カレラか……」
どうやら僕はあのまま寝てしまったらしく、夜も相当に更けている。
夕方ですら人通りが疎らだったのだ、カレラ以外に人の姿は見当たらない。
「ど、どうしたんすかこんなとこで!
風邪引くっすよ!」
慌てたようにいつものストレートの茶髪とその上のお団子を揺らして駆け寄ってくるカレラ。
しかし、服装がいつもよりも幾らか高そうなことに気付いた。
「まあ僕は色々と色々した訳なんだけど……」
曖昧な返答を返す僕の言葉を聞きながらカレラは横に座ってきた。
少し動けばすぐに肩がぶつかり合うような距離。
……僕が2年間の月日を掛けて尚も、詰められなかった距離。
「カレラこそどうしたの?
その格好、なんか妙に気合い入ってるね……」
いつものぼろ雑巾のような服ではない。
貴族か何かに会いにでも行くような格好とまでは言えないが、少し小綺麗にした白基調のコルセットを身に纏っている。
「こ、これっすか?
似合ってます?」
恥ずかしげに頭を掻く彼女だったが、仕草といい雰囲気といい正直お世辞にも似合っているとは言えない。
「ううん、ぜんっぜん」
「ひ、酷いっす緋色さん!」
「でも可愛いよ」
僕が狙い済ましたようにそういってやると、カレラは膨らませていた頬を一瞬で緩ませる。
「そ、そうっすか。
いやぁ照れるっすねぇ、でへへ」
「いつも思うけどその酔ったおっちゃんみたいな笑い方なんとかならないの?」
「無理っすよ、癖ですもん……」
苦々しげにそう呟いたカレラ。
本人も少なからず気にしているようだ。
「……」
「……」
僕らはいつも会っても余り話さない。
でもそれが気まずいとかそういうことではなく、それが僕らの在り方なのだ。
話さなくてもお互いに通じ合ってる、なんてこっぱずかしい話だが実際その通りだ。
ほら、今だって……
「もしかしなくてもなんかあったすよね、緋色さん」
「そっちこそ、呼吸のテンポがいつもより数パーセント早いし通常より若干瞳孔が開いてる。
なんか隠してるんでしょ」
「いやそこまで分かるのは引きますって……」
「まぁ、隠してるのはほんとなんすけどね……」
目元に掛かる髪を煩わしそうに流しながら、真面目な顔に直って言うカレラ。
「奇遇だね、僕もだ」
「奇遇ではないと思うっす」
いい加減ふざけるのをやめなさい、とでも言いたげなジト目で僕を睨む彼女だったが、一拍置いて話し始めた。
「……実家に戻ることになりました」
隣で足を山にして座る彼女は、頻りに夜空でも見るかのように上を見上げる。
……泣いて、るのか。
「そっ……かぁ……」
カレラは基本いつも行商用のリュックを背負っている。
普通の家庭ではないことは察していたが家庭内情まで聞けるほどデリカシーに欠けた僕ではなかったので、どんな家かまでは知らない。
「止めて……くれないんすね……」
彼女は顔を山座りにした太ももと腹の間で俯かせた。
声は上ずっていて、見てるこっちは正直痛々しい。
そんな彼女に気の利けた格好のいい台詞を掛けられたならどれだけよかったことか……
「……柄じゃないんだ」
僕の口から紡がれたのは、そんな情けない一言だった。
マジで主人公がかっこいい展開に憧れてこれを書き始めたものの、そういう展開を書けるようになるまでで100000字。
物を書くのが難しいのは分かってましたがそれ以上にめんどくさくて仕方ない。
僕みたいな飽き性がこんな長く書き続けてることが奇跡といっても過言ではありませんね。




