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Endless summer  作者: 育深
闘技場編
50/58

刀剣男子と恋する乙女

ずっと僕は彼女に勝てなかった。

いや過去形はおかしいか、まだ勝てていないのだから。


剣術の名門、芳賀家に生まれた僕は余り剣の才に恵まれていなかった。

それでも剣を自らの体の一部のように扱って華麗に闘技場で勝利を納め続けた父に憧れて、剣を振り続けていたが、別に不自由などなかったのだ

なぜなら、父や母、使用人達はそんな僕を微笑ましげに見守ってくれていたから。


そう、妹がその天才的な才能の頭角を現すまでは……


そう、あれは初めて兄妹喧嘩をしたときのことだった。


理由なんて覚えちゃいないし、どうせくだらないものだったのだろうが、俺はあのときの屈辱を今でも鮮明に思い返せる。


--------------


「やぁぁ!」


「ぐっ……」


僕は腕を思い切り叩かれて堪らず木刀を落とした。


「おおお……」


それを見ていた使用人達からは感嘆の声が上がる。

それもその筈、物心ついてから長年ずっと剣の鍛練を怠らなかった僕を、少し父に手解きを受けただけの妹が危なげもなく勝ったからだ。


「お兄ちゃん、弱いね」


-----------


あの時は悔しかった……

いや、まだ悔しいんだ、過去形はおかしい。


態々闘技場を貸し切りにしてまで行った兄妹喧嘩は、

今後の僕の人生を大きく動かすことになったのだ。


具体的な例をあげるとまず、使用人達の対応が悪くなった。


表立って何か会ったわけでもないが、僕よりも妹を優先するようになった。

今考えればこれは、実力主義の芳賀家の中で僕よりも妹が時期家長に相応しいとでも思って媚を売っていたんだろう。

しかし、子供がそんな事情を理解できる筈もない。

その上、人の感情に無駄に鋭いのが子供だ。

当時の僕は相当凹んでいたような覚えがある。


これが10才の頃、この時はなんだかんだ言ってまだ穏やかなものだった。


変わったのはそれから数年経ったくらいの時だっただろうか、妹が露骨に僕を避けたりするようになってきた。

使用人達もその頃には僕に対する態度が今までよりも露骨になってきており、結果僕はグレた。


家を出て毎日のように闘技場下町の連中とつるんで遊び回っていた。

喧嘩に明け暮れ、女遊びをしまくって。


別に別段楽しい訳でもなかったけど、家に帰るのが嫌だったから……


下町の人間は、僕のことを墜ちただの腐っただの言いたい放題言っていたがそんなの耳に入るなら元よりグレちゃいない。


でも、僕はカレラに会って変われたのだ。






--------


あれは今日みたいな少し暑い夏の日のことだった。

その時10歳くらいだったカレラ、大きな行商用の鞄を身に付けて身体も不健康そうな少女に群がる大勢の男達。

それぞれが1本ずつモーニングスターを持って彼女に向けている。

今思うとどういう状況だか全く理解できない。



「や、やめてくださいって言ってるじゃないすか!

や、やだっ!その薄汚いモーニングスターをこっちに向けないでっ!」


「バカ野郎が!

500魔法銀貨あげるって言われただけでついてくる方が悪いんだよ!」


「だ、騙したんすね!

最低っすよ!」


「持ってる訳がねえだろバカ女!

国家予算レベルじゃねえか!」


「と、都会はやっぱ怖いっす、嘘つきハゲと不良バカの巣窟っす……早く実家に帰りたい……」


「て、てめ!

言いやがったなクソガキ!」


真面目にどういう状況だよ……


まあ当時僕は連中と酒を飲み漁った帰りで酔っぱらっていたのか、ヒーロー気取りで止めに入った気がする。


「らめりょぉ!

集団れおにゃのこを囲むとはきちくのしょほう!

このぼくがゆるはないぞ!」


……えっ、こんな感じだったっけ僕?


「ああん……?んだテメ酒臭えなぶっ殺すぞ!


……って芳賀だ!てめえら、ずらかるぞ!」


町の不良の中ではまあまあ名が売れていた僕は、戦わずにカレラを大量のモーニングスターから救うことが出来た。

……恐らくあそこまで酔ってると流石に多人数相手に勝てない。


「にげんのかぁ!だっせえぞぉ!」


追いかけようともしたが、視界もグラついた千鳥足では追い付けないことに気付いた俺は、取り敢えず壁際にへたりこむ少女の安否を確認することにした。


「らいじょうぶ?怪我なぁい?」


そう言って手を差し伸べると、少女は俺の手を取りながら言う。


「あ、ありがとうございます!

助かったっす!

私カレラって言います!」


「ううん、僕は芳賀緋色でえす、よろしくねぇかれらちゃん!」


……僕、関わっちゃいけない人種の人間じゃん。

恥ずかしいよ誰か回想止めて……


それから別段話すこともなかったので、僕はカレラと別れた。


別れ際、なんとなく振り替えって彼女の方を向いたら、大きな行商用の鞄で背中が隠れてしまっている。

小さな身体にのし掛かるように乗せられたそれは、背負っているものの大きさを物語っているようで、何も背負わずにいる僕には今でも眩しく見える。


これが僕と僕を変えてくれたカレラのファーストコンタクトだ。

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