ある男とある……少女? 2
不服だが致し方ない。
……というかこいつ俺が質問したいが為に反抗できねえの分かってて言ってないか?
そうだったら相当悪どいな。
思っても仕方のないことなので質問を続ける
「お前ら11人って今まで何してたの?」
目にかかって視界を狭める黒髪を鬱陶しそうに手で払うと、彼女は口を開いた。
「まず軽く自己紹介した後、私たちにやって欲しいことの説明かな、超豪華な夕飯を食べながらね!」
なるほど、救世主と言えば聞こえはいいが、これは所謂パシリというやつか。
……
スルーしようと思ってたのににやにやと意地の悪い目でこっちを見てくる視線が鉄格子を跨いで突き刺さる。
性格悪いなこの女、さっきの自称妖刀より遥かに性悪じゃねえか。
つか飯はお前が食ったんだろ。
「……詳しく」
「しっかたないなぁ、優しい優しいおねえさんが教えてあげる!」
なにこの年増。
ぴょんぴょん跳ねやがって年齢考えろよ。
……心の中で悪態を吐くしかないとは我ながら哀れなり。
「まず私たちには周辺の地理を確かめて貰いたいんだって言ってたよぉ。
平たく言えば休息みたいなものだよねぇ。
いきなり呼び出してそのまま仕事をさせるっていうのはあっちとしても良心が痛むんじゃないかなぁ。
その後は闘技場に行って私たちの力を確かめるとか言ってた筈!
次に転生帰還者協会とかいうところで、登録をしなきゃいけないみたいだよ。
この世界には転生で戦う力を持った人間が謎の化け物と戦わなくちゃいけない義務があるみたいだからそれを支援するための組織って説明を受けたなぁ。
転生から帰ってきた人を転帰者っていうらしいよ、まあこの世界じゃ全員それなんだけどね。
制度としては冒険者協会と同じような感じだと思う。
因みに君は休息期間中はずっと牢屋だって!」
……こいつめっちゃにっこにっこしてやがる。
「冒険者協会って知ってる前提なの?」
「えっ!知らないの!?転帰者は大体の確率で冒険者協会がある世界に転生するって聞いたし他の転生者の人達も知ってる様子だったよぉ?」
そう言って小首を傾げてみせた彼女を横目に心の中でぼやく。
そりゃ不思議なこった、数多ある異世界の仕組みが被りまくってるとか……ね?
「質問はこれで終わりだよね!
もう私疲れちゃったよぉ」
そう言って彼女は凝り固まった肩を回す。
こんなに長ったらしい説明をしてくれたんだから彼女はなんだかんだ結構いいやつなのかもしれない。
なんて考えていると、彼女に話しかけられた。声質が変わりすぎてて一瞬誰だかわからなかったよ。
「……君さ、なにが基準でこの訳の分からない序列があるんだと思う?」
いきなり今までとは一風変わった神妙な顔つきで言葉を紡ぐ彼女に、俺も少しだけ真剣になる。
「はぁ、何って強さ順じゃねえのか?なぜか俺は弱いけどな。
お前が強いってことは、俺を除く11人は闘う力の強さ順で並べられてるって考えんのは普通だろ?」
「そうなのかな、私はなんかそう思えないんだよね。
……もし強さ順じゃなかったら、君はなんだと思う?」
なんでこんなこと聞くんだろうこいつ。
何か知ってそうな感を醸し出すようなセリフを吐いてるくせに、どことなく不安そうだ。
「私、エルフの中でも勘が強い方なんだよね。この転生自体何かあると思っちゃうっていうか」
「エルフって勘が強いのか、俺はまずそれを知らねえよ。
まぁそうだな、敢えて答えを出すというなら」
勿体ぶって見たものの、実際黒幕ではないのでそんなこと分からない。
それを踏まえて適当に言ってみる。
踏まえるところないとかいうツッコミはご法度ですよ。
「年功序列?」
1人の美少女の甲高い爆笑が、青い月明かりが照らす地下牢の通路に木霊した。
……恥ずかしいんですが
「いやぁ、面白いこと言うねぇ君は」
彼女はあの後も十数秒笑い続け、今ではもう咽せかけている。
……そこまで面白かったですかね。
適当に言ったんですけど。
「君さぁ、11人いる中の1人として覚えてないよね。
序列5位にすっごいおじいちゃんいたよぉ
序列10位はおばさんだったし」
「興味ねえもん別に。
それにあん時は自分がこんなところに呼び出されたことに怒っちゃってたし」
「ぶちのめされたけどね!」
「少なくともそんな眩しい笑顔で言うことではねえよな」
くすくすと口角を緩める彼女。
「やっぱ君面白いよ!うん!」
超ご機嫌な様子の彼女を眺めていると、
階段を降りる音が聞こえてくる。
ここからでは全く見えないが、地下牢から上の階へ上がる階段は、そう遠くもないらしい。
恐らく鉄格子を開けて左手に10メートルくらいだろうか?
そんなことを思案していると彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。
「シュリア様、城の中の生活区域を軽く案内しますので、要件が済んだら上へおいで下さい」
城の中で生活するのかこいつら……
俺もある意味城の中な訳だが。
「はーい!!」
元気な声でそう返事をした彼女は、こちらの方を向き直して長い睫毛を上下させてウインクをしてきた。
「じゃあね、結構楽しかったよぉ」
「へいへい、どうも」
適当に返事を返してから俺は、彼女にこう告げる。
いや、聞こえるように言ったつもりはなかったと訂正はしよう。
しかし彼女には聞こえてしまっていたようだ。
「……目が死に過ぎだろあいつ。
怖えわ……」
彼女は、なんのことかわからないと言った表情を見せて。
しかし、その発言は気にするほどのことでもないと判断したのか、通路を小走りで駆けていった。
と、そこで俺は重大なことに気付く。
彼女を見送った直後、月明かりに照らされた鉛色の通路に目を走らせた時だった。
そう、月明かりなのだ。
思えば妖刀に気絶させられる前も陽光が鉛色を彩っていたような覚えがある。
……うん、ここ地下牢じゃなくね?