ある男と刀剣男子2
「どういうことだい?」
振り向きもせず言い放ったその台詞からは、殺気すら漏れていたようにも感じる。
「いや別に、まあ折角だし闘技大会だけでも出てけよ」
俺は目を逸らしながら言う、ここまで来て引くのは些か思うところがあるからな。
「ぷっ」
俺の台詞を聞いた芳賀兄は、耐えきれないといった様子で吹き出した。
「あははは、ごめんごめん。
もう受け付け終わってるよ?
途中出場なんて出来ないから無理だよ」
そう言ってから笑いで流す彼。
別に気に病んだ様子も見せない。
しかし、俺にはそれが酷く歪に見えるのだ。
「じゃあ出ていくつもりなんだな、町から。
カレラって子とかにも何も言わずに」
出ていく、ということに彼は否定の意を示していない。
つまりそういうことなんだろう。
会った時から、いや、前哨戦でこいつの姿を見たときからこいつには覇気がなかった。
結果……
「……さっきから君はなんなんだ?
どうだっていいだろそんなこと。
才無しの負け犬の尻尾を踏んで楽しいかい?
序列一位様だかなんだか知らないけど失礼も大概にしておけよ……
っああ……!不愉快だ、僕にもう二度と関わるな」
ギッと睨みながら彼から吐き捨てられる言葉の数々……それには妹に負けたことへの悔しさや惨めさ、どろどろに溶け合って濁った負の感情が滲み出ていた。
「……お前、悔しいのか?」
「っ!本当になんなんだ君は!
バカにするのも大概にしろっ!」
遂に両手で俺の胸ぐらを掴んで柔和な印象とは真逆の憤怒の形相で怒鳴る芳賀兄。
なるほどね……
なら俺は満面の笑みで言ってやろう。
「なーんだ、悔しいのかお前。
なら出りゃいいだろ、悔しいっていうのはお前がまだ諦めてない証拠だぞ。
本当に終わっちまった奴が抱えるのは嫉妬じゃなくて羨望だ。
お前はまだ終わってねえ、リタイアは勿体無いよ」
言い終えた瞬間、俺の胸ぐらを掴んでいた手が、力なく重力にしたがって落ちていった。
彼の表情はまだ厳しく、苦虫でも食い潰したかのような酷いものではあったが、反論する気力は無くなったようである。
「……!」
日も完全に落ちて、夕闇は宵闇に変わる。
またちんたらして甲冑少女にどやされるのも不本意なので、俺はその場から離れる。
「待ってるぞ芳賀緋色、俺はお前の下克上が見たい」
振り返ると、俯いて血が出そうなほどに拳を握りしめる少年の姿。
……どう転ぶのかは知らないが、また変な口出しちまったなぁ
「た、ただいまー」
芳賀兄と別れてから存分に迷った俺が【ヤドリギ】に戻ってこれたのは、酉の刻を大きく回ったところ。
まあ6時半位だった。
それでも日は結構落ちていて、ロビーには明かりが灯っていた。
闘技大会初日終わりともあって、ここにはチェックイン待ちの人達が沢山いる。
今日から泊まる予定の人が多いのだろう。
疲れた足にその煩雑さがやけに響いてしまって、疲れた表情で自室へ昇る階段に向かっていると、後ろから控えめに肩にちょんちょんとつつかれる。
「誰だよ、疲れてるんだから早く部屋に戻らせ……甲冑少女?」
そわそわした様子でこちらをちらちらと見ながらなにか言いたげにしている甲冑少女。
格好はいつもの甲冑ではなく、キャミソールのようなものを着てラフに済ませている。
フード付きパーカーの俺が言うのもなんだが、壊滅的なファッションセンスだ。
「こ、今昼はお見苦しいところを見せて申し訳ありませんでした……
す、少し取り乱しました」
気恥ずかしいのか、吃りながら必死に言葉を繋げる甲冑少女。
というかお前はいつも取り乱してるだろ……
「あ、あぁ……いや、あれの方がいつもよか可愛げがあんじゃん?」
なんだかんだ言っていつもとは違う塩らしい態度に気圧されてしまった俺もついつい釣られて恥ずかしくなってきてしまう。




