ある男と刀剣男子
「わ、分かったから……最善は尽くすから落ち着けよ……キャラ崩壊が著しいことになってるから……」
壁に追い詰められた俺は苦し紛れにそう吐き出すと、甲冑少女もだんだんと泣き止んでくる。
「シャ、シャルルちゃん、大丈夫だよ!
序列一位様ならやってくれるよ!応援しよう!」
俺から離れてソファに戻った甲冑少女に寄り添って背中を撫でているのは王女のエルザ。
最初から俺のフォローに入りやがれこのうんこ垂れ、後適当なこと勝手に言うんじゃない。
「シノ!
お前モテモテだな、羨ましいぜ」
「そうかサルチャ、ならば死ね。
というかお前なんで負けたんだよ?
絶対勝つとか意気込んでなかったっけ?」
人の気も知らずに羨ましいなどと冗談にしてもタチの悪いことを言って肩を組もうとしてくるカールを華麗な動きで交わし続けながら問いかける俺。
すると、彼は肩に回そうとしていた腕を自分で組んで考えるような仕草を取りながら説明を始める。
「ああ、なんかな。
あんま悪いやつに見えなかったんだよ。
刃を交えてみて始めて分かることってあるだろ?
んだから正々堂々と勝負をしてやろうって思ったんだ」
「それで正々堂々と負けやがったのか、救世主やめちまえ」
俺はゴミを見るような目で吐き捨てた。
あれに勝つとかどうやったって無理だ、軽く三回は死ねる。
「……シャルルちゃんにぶっ飛ばされて牢屋にぶちこまれた名ばかりの序列一位がなにを言ってるんだろうねぇ」
シュリア、うるさい。
「ま、まあとりあえず喧嘩はよそうよ!
今は折角だし試合を楽しもう!」
爽やかスマイルを顔に張ったスルトくんが仲裁にはいる。
お前……居たのか……
まあスルト君の言うことも尤もだった訳で、俺たちは取り敢えず観戦していたものの、やはり集中など出来やしない。
あっという間もなく今日の試合は全て終わったようで、俺は今帰路に付いている。
他のやつらは俺が便所に行っている間に先に帰ってしまったらしい。
薄情なやつらめ……
俺は今日朝っぱらから腹が痛くて敵わないというのに。
そうして闘技場の外に出ると、もう夕方だというのに観戦客の影響で闘技場周辺ははとても賑やかだった。
沢山の屋台も出ており、まるでパレードでも行われているかのような風景。
空を染める夕刻の橙と活気溢れる町並み少し遠目で見ながら感慨に耽っていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。
「やっと見つけましたよ、志乃優沙さん」
俺の名前をなまらずに言えている、ということは……
「ああ、芳賀兄の方ですか」
俺は呆れたように声を上げて人混みの中の彼を見つける。
「少し、場所を変えていいですか?」
と言いながらもすでに歩き出してしまっている芳賀兄の後ろ姿には、有無を言わさせない何かがあったようにも思える。
別にそれが理由とも言わないが、俺は無言で頷いて彼のあとを追いかける。
あまり長い時は過ぎていた訳ではないのだが、既に夕陽は地平線に沈みかかっていたようで、町は段々と陰りを見せていった。
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「ここらへんでいいでしょう」
連れてこられたのは闘技場の裏口付近、ここには昼間もお偉いさん以外は居なかったせいか、夕方になっても人通りは少ない。
「で、カレラのこと。
でしたっけ?」
壁に寄りかかって少し格好付けた俺が観念したように話し出すと、彼は少し変な顔になって言った。
「敬語、慣れてませんよね。
普通にしてもらって構いませんよ」
「あぁ?そうか……悪いね気使わせちゃって。
お言葉に甘えさせていただくとするわ」
ばつの悪そうな顔とでも表現すればいいのだろうか?
俺はあまり機嫌が優れないままに話しを始めた。
「丁度昨日、あんたの試合見に行ったカレラに色々闘技場のこと教えてもらっただけだよ。
流れでお前の話が出てきただけ、別にそんなに気にするようなことでもなかったろ」
「そう……ですか。
すみません、あいつちょっと危なっかしいところあって……
1日に5回は詐欺に引っ掛かるんですよ、だから心配で……」
それは恐らくちょっとどころの話ではないぞ、何をするのにも保護者同伴が必要なレベルだ。
「じゃあ、ごめんなさい。
もう出ます、足を止めてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って一回深々と頭を下げた彼は、夕闇の中に姿を消そうとする。
俺はそれを黙って見守って……
いようと思ったんだけどなぁ……
「出ます……っつうのは、この町からってことか?」
今にも死にそうな芳賀兄の後姿を追った俺の声は、彼の足を止めるに至ったみたいである。




