ある男と便所3
「へーい!!お嬢ちゃんたちー!!見てるー!?」
東方から現れたジジイは、松葉杖で体を支えながら必死に手を振り大声でアピールをしている。
格好はオーソドックスなレザーアーマー。
元から身長が低いせいか、明らかにサイズが合ってない。
「おおっと!!これはヘルー選手!余裕の表情!これは期待できます!」
あの司会目線が一瞬下に行った……
言ってることちぐはぐだし、こりゃカンペ見たな。
なんてことを考えながらニヤついていると、名前を呼ばれたので表情を直す。
気持ち悪いとか言われたら立ち直れ……るな。
「ゆーさ君」
俺を呼んだシュリアは結構神妙な顔付きだ。
俺は動揺を悟られないように聞き返す。
「なんだよ?」
「あの司会カンペ見たよね」
……つっこめないのが辛い。
結果から言ってしまうとヘルーの圧勝で終わった。
なぜ結果から話したかというと、見えなかったからだ。
いや、隣で目を細める我らがシュリアたんは見えていた様子だが俺は全く見えなかった。
試合開始から三秒足らずでヘルーの相手の顔面世紀末が泡を吹いて地に伏せてしまったのだ。
司会者すらも言葉を失い、試合終了の合図もないままに顔面世紀末は担架で運ばれている。
「ゆーさくんより強そうだね!」
誰もが見惚れるような笑顔で傷を抉り返す我らがシュリアたん。
「うっせ」
俺は手を払ってあしらうと、彼女は不満そうに口を膨らませた。
「つ、次の試合は準備が整い次第開始致しますので、四試合目までの選手の方は控え室にてお待ち下さい!」
やっとこさ平静を取り戻したらしい司会者はどよめく会場に声を響かせた。
「じゃ、俺も行くとしますか」
「ど、どこへ?」
歩き去ろうとする俺に向かってシュリアが聞いてきた。
「便所」
振り向き様にニヒルな笑みを浮かべて格好をつけた俺に、彼女がこれ以上ないほどに呆れ返っていたのは言うまでもないだろう。
いや仕方ないだろ朝からずっと腹痛が酷いんだから……
ああ、スッキリしたぁ。
この瞬間はやはり最高である。
体内から異物が抜けていく感覚、出し終えた後の一時の余韻。
……俺は何を言っているんだ?
勿論前回のように一般用便所ではなく貴賓用の便所で用を足したぞ?
抜かりはない。
満足げにドアを開くと、丁度隣の個室からも人が出てきたようでつい目があってしまった。
「あ、ども」
「あ、はい」
つい俺から声を掛けてしまったので焦ったが、変な目で見られてるということは無さそうだ。
個室から出てきたのは俺よりも少し背が低いくらいの逞しい青年で、童顔で美しい顔とは対照的に佇まいから感じられる猛者の雰囲気を醸し出していた。
……ん?この人どっかで見たことあるぞ。
「?」
顔をまじまじと凝視する俺に警戒する彼だったが、俺はそんなこと気にしない。
もうすぐ思い出せそうなのだ。
……
あ!この人昨日の闘技場で見た芳賀って人か!
「もしかして芳賀緋色って人っすか?」
俺は控えめに聞いてみると、彼は明らかに表情を曇らせた。
「僕のこと知ってるんだ……
うん、僕が芳賀緋色だよ。
最もまぁ、近いうちに芳賀じゃなくなるんだけどね」
会話が重い……
初対面なのに……
「じゃあ出ないんすか?
今回の闘技大会は」
俺も大概初対面なのにデリカシーがない。
……知ったこっちゃない。
「出ないよ、もう出ても無駄だしね……」
彼は唇を噛んで辛そうに呟く。
「出りゃいいんじゃないすか?
間に合うかどうか知らんけど、カレラもきっと出てほしいと思ってますよ」
「何で君がカレラのことを!?」
あ、やべ。
シュリアに首突っ込むなとか伝えておいて自分だけこれは非常にまずい。
もうこれは俺の圧倒的なまでの話術で誤魔化すしか道がないぞ。
そう言って俺が捻り出した言葉は……
「て、天啓です」
自分がバカなのを忘れてたよ……
便所で出すのは便であって余計な口ではないというのに……
こういうところだけは俺頭いいな。
かきだめがつきた……
アホみたいに連騰しまくってたバカマジで誰だよ……俺です。




