ある男と闘技大会3
俺はやっとこさ貴賓席に帰ってくることができた。
疲れたのでソファに座ろうとすると、玉座にどっしりと腰掛けていたシュリアがトテトテと駆け寄ってくる。
「あ、ゆーさ君戻ってき……ってどうしたの蛆虫みたいな顔して!?」
ねえ?酷過ぎない?
というか成る可く突っ込ませないでくれる?
「俺が一方的にツッコミをする羽目になった……」
ソファに腰掛けると同時に、ため息をつくように言葉を吐くと、シュリアはその場で硬直した。
「そんな……天然高スペック系美女お姉さんキャラの私ですらツッコミに回らなきゃいけない時があるのに」
そう紡ぐ顔はまるでこの世の終わりを見たかのよう、絶望に染まっている。
いやそこまでのことじゃねえよ。
後自尊心高すぎてついてけない。
とか思っていると、国王が遂に貴賓席に戻ってきたようだ。
威厳のある風貌と険しい表情で先ほどまでシュリアが我が物顔で占領していた玉座に腰掛ける。
普通の人だったら萎縮してしまうだろう。
しかし事情を知ってしまった今ならこいつを生涯白い目でしか見られない。
「なぁ」
俺はシュリアに呼びかける。
「ど、どうしたのぉ?」
彼女も俺の真面目な雰囲気に飲まれて表情を変えた。
「一緒にこの国から逃げよう」
この国はもうダメである。
国のトップが便所で汚職し出してるほど末期なのだ。
出すもんがちげえだろ。
「ふぁ?」
俺の言葉を聞いた彼女は別の言語でも聞いたかのような表情を一瞬見せた後、その綺麗な白肌を真っ赤に染めた。
「な、何言ってんの!?えっ!?えぇ?」
まぁこいつには色々と世話に……なって無いな。
飯を取り上げられた記憶しかない。
別に置いてってもいっか。
「いやごめん何でもないやっぱいいや」
こいつが俺にしてきた数々の仕打ちを思い浮かべながら苦々しげにつぶやく俺。
「えっ、ちょ!えっ!」
シュリアの方はまだわたわたしているようだったが、ほっとこう。
もう直ぐ試合が始まるみたいだ。
試合までは数時間ほど空いてた?
……道に迷ってほぼ浪費したとかそんなね?
アホなこと……ねぇ?
そいえば試合って誰と誰がやるんだろ?
鬼畜系甲冑美少女にでも聞くか。
そう考えた俺は、王女様が座っているソファの横に控えているシャルルに話しかけた。
「よぉ甲冑少女……次の試合って誰がやるのか知ってる?」
俺がそう聞くと、彼女は呆れるように言った。
「はぁ……既に渡したはずですが?」
「どっかの誰かさんが態々くっせえ便所に案内すっからついつい無くしちゃったんだよねぇ」
俺が間髪入れずにそう返すと、一連の話を聞いていた王女様が少し眉間に皺を寄せてシャルルを見る。
そりゃそうだよな。
自分お付きの護衛がこんなガキ臭い嫌がらせしてたら反応に困るよなぁ。
シャルルはそれを見て、苦虫を噛み潰したような表情になる。
やべえ楽しい最高。
……性格の悪さならこいつと俺でダントツツートップだな。
「……失礼しました。
最初の試合はAブロックでヘルー様が出るご予定となっております」
ちょっと待って知らない誰その人。
こいつに聞きたくはねえが聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥とも言うもんだ。
ここは聞くべきだろう。
「……ヘルーって誰?」
俺の、強い決意を孕んだ疑問をシャルルにぶつける。
途端にシャルルは不敵な笑みを浮かべて言った。
「壮年の男性の方ですよ、今まで何度も顔を合わせたとは思いますがね?
私だったらこれから長い付き合いになる仲間なんですから一言くらい挨拶は交わしますけど」
……聞くべきではなかった。
その後のゴタゴタ……と言っても俺とシャルルの壮絶な言い争いくらいしかないのだが……まぁ省くとして、そろそろ試合が始まるようであった。
俺はソファに座って見ようとしたが、ちょうど策の役割を果たす大理石の壁が阻んで見えない。
なんのためにあるんだこのソファ……
それはさておき、会場は歓声に包まれ、それに共鳴するように地が揺れていた。
遂に、ここにいる誰もが待ち侘びたその瞬間は訪れた。
「さぁ!皆様お待ちかねの約第250回闘技大会が始まります!
今回は異世界からはるばるやってきた勇猛な戦士を交えての大会となるということでいつも以上に熱気が凄いことになっております!」
中央で叫ぶように言い放つ司会らしき女性。
約……?
まぁ確かに数えるのは大変だけどそういう問題ではないと思うぞ。
会場は俺のどこか呆けた思考とは真逆の反応を示す。
もう竜の咆哮にしか聞こえないような雄叫びが会場を網羅する。
「まぁ……長い前置きは開会式で済ませておいたので早速一試合目に行きたいと思います!」
そうなのだ。
開会式、俺は貴賓席の場所がわからなくて右往左往してしまっていたから聞けていない。
いやまぁ聞きたいってわけでもないんだけどさ。
「西方!初出場でありその腕っ節は中々のものと界隈では噂されています!予選では十何人もをそのモーニングスターで嬲り、撲殺魔の称号を得たグラン・フェニル!」
出てきたのは格好が既に世紀末感満載の出っ歯男。
にやにやしながら周囲を見渡している。
手に持つ小型のモーニングスターは、若干血で錆びてしまっているようだ。
「東方!モテ……モテ……セクシーナイスガイ?異世界では全ての女を虜にした完璧美男子!ヘルー・ゲイザー!!
ってこれ紹介文腕っ節に関してノータッチ!?本当に通ったの!?」
司会のアフレコツッコミに対して会場に笑い声が響いた。
なんか平和でいいなぁ……あれ?俺らなんでここに呼び出されたんだっけ?
国王の暴挙を止めるためだっけ?
そこはいいとして、ヘルーというのはおじいさんだったはずだが……
しかし、その疑問はすぐに解消されることになる…
モーニングスターですか?三度の飯より好きですよ




