ある男と便所2
「それならお前もだよ。
考えたな、便所の中でしようとは……」
こいつらなんも考えてないだろ。
情欲に身を任せきっちゃってるだろ。
芋虫より脳味噌ちっちぇえだろ。
「そう褒めるでない……最近は私達が会うだけで皆ピリピリし出すからな。
まさか普通便所で密会などとは誰も思うまい」
照れんなジジイ頼むからやめてくれ、いや本当に……
つかあんたら会うだけで皆がピリピリし出すほど周知の仲だったのか?
この国謎の化け物とか抜きに詰んでるだろ色々と……
特に王女の護衛とか。
ここが普通用便所ってことが貴賓用があるってことだろ。
ってことはあの甲冑少女わざとこっちの便所に案内したってことよね、性悪すぎるぞ。
「して、本題に入ろうか芳賀よ」
俺の怒涛のツッコミラッシュが丁度終わる頃、切り出す国王。
ああ、待っててくれたの?ありがとね。
それにしても芳賀、か。
……どっかで聞いたことあるような。
考え込もうとすると、国王の方が些か興奮したように言葉を紡ぐ。
「そうだな、じゃあ賭け金はいくらにしようか?」
……単なる禁断の恋かと思ったがどうやらそうじゃないらしい。
俺はいきなり飛び出てきたとんでも発言に眉を寄せた。
少し頭の中を整理させてほしいと思わないでもないが、それよりも早くこいつらの賭けの内容について詳しく知りたい気持ちの方が大きい。
場を沈黙が支配してから数秒後、芳賀って人の方から口を開いたようだ。
「芳賀の名にかけて魔法銀貨500枚」
俺は、発せられた言葉についつい度肝を抜かしてしまう
魔法銀貨500枚だと!?
まほうぎんかてなに?
い、いやよく知らないが名前的にめっちゃ高そうな感じがするのでこの反応はあながち間違いではないと思う。
「ほう、大きく出たな芳賀……してお前さん、娘の小遣いの300魔法銀貨はいいのか?
もしこの賭けに負けたらちょん切られるぞ」
親バカが過ぎるだろ……なんだよ300魔法銀貨って。
いや高いのかどうかよくわかんないけど。
というか国王の声色的にちょん切られるってのが比喩に聞こえんのだが……
やっぱこの国詰んでた。
「そこが唯一心配な点ではあるんだが……愛しい愛しいマイエンジェルちゃんのことだから腕の一本や二本で許してくれることだろう」
許してくれてなかった!?
俺は異世界来て唯一の心配があんたのオツムだよ!
「ウェズリー、お主の方はどうなんだ?」
そう問う彼は、声に喜色を滲ませたようにも思える。
……めちゃくちゃ気になる。
「面白みが無くて悪いが、お前さんと同じ賭け金にさせてもらうよ」
……ほんっとつまんねえな!
「お前の月の小遣いが100魔法銀貨……国家予算使うつもりか!?」
……さいっこうにおもしれえな!
……国王の汚職が便所で発覚、トイレだけにってやかましいわ!
つか芳賀って人の娘の小遣いより少ない国王の小遣いってなんなんだ?
というか国王小遣い制って……宿に戻ったらすぐに旅支度を整えなければ。
「すでに遺書は書いてある、問題はない……」
問題以外何もねえだろ!
「そうか、お主の意思はしかと伝わった。
ではここに記せ」
そう言ったのが聞こえたと同時にカリカリと何かを書く音が聞こえてくる。
恐らく契約書みたいなものにサインでもしているのだろう。
「よし、確認はしたな?」
国王が緊張しながら問う。
「ああ、勿論だ。
ではまたな、久し振りに話せて楽しかったぞ。
早く平和になって欲しいもんだ」
あんたの頭はいつでも平和だ。
「それはまぁ……最近は国の中央部も穏やかじゃないからな……」
恐らく一番穏やかじゃないのはあんたの老い先だ。
彼らはその言葉を最後に便所から出たようだった。
勿論1人ずつ順番にだったが。
彼らが行った後、すっからかんの便器を見て俺は呟く。
「……出ないなぁ」
そいえば賭けの内容ってなんなんだろ?




