ある男と便所
「っと、トイレトイレ……」
ソファで寛いでいた俺だが、急に用を足したくなったのでシャルルにトイレの場所を聞く。
「悪いね甲冑少女。
ちょい聞きたいことがあるんだけど、トイレってどこだか分かる?」
「……付いていきましょうか?」
彼女は事務的な口調で述べるが、めんどくさそうな雰囲気を隠せていない。
……王女の護衛とは思えない程隠すということを知らないな……俺をぶん殴る前までは他の騎士の嫉妬から嫌がらせ受けてたとかシュリアが言ってたが結局こいつ原因なんじゃねえか?
「いやぁ、悪いね。
助かるよ」
俺は彼女の態度に内心で毒づきながらもへらへらと笑ってそう返す。
煽り倒してやりたいところだが、今はトイレが優先なのだ。
俺たち救世主が入ってきた方の扉ではない方の扉を開けて、幾分か歩き、やっとトイレに辿り着く。
普通に上に男子トイレと表記がしてある。
女子トイレの方もまた然り、だ。
扉は無いが、中の個室に扉がつけられているのだろう。
「ここが男子トイレです。
くれぐれも間違えて女子トイレの方に入らないようにしてくださいね」
そう言ってキッと俺を睨みつける。
言葉の端々に一々刺々しさ配合するのやめていただけないでしょうか……
それはそうと……
「いや、翻訳は大丈夫。
なんか俺この世界の文字読める上に書ける臭いから」
昨日、ここに来た時そのことについてシュリアに驚かれたのだ。
後々他の人にも聞こうとは思っていたものの、ついつい後回しにしてしまっていた。
「……!?
それは理論上有り得ないとは思いますが……
私達だって異世界に召喚された時にその世界の言葉は分かっても文字は読めませんし……」
そうなのか……うん俺的には今日の夕食のメニューの方が気になるな。
呆けたことを考えていると、シャルルは何かに気付いた様に目を見開き、甲冑越しの口元に手をやる。
「……もし貴方方救世主が私たちと同じ様に異世界に渡航する際、何か1つ能力を授けられるのだとしたら或いは……ですね。
帰ったら【ヤドリギ】の方で皆様に聞いてみなくては」
俺はこいつの仕事を増やせて何よりです。
ということで、でもどういうことでもないが俺は尿意を収めるため、トイレへと入る。
「個室しかねえのか……」
広さは狭い部屋1つ分くらい。
でもってドア付きの個室が数部屋並んでいる。
ドアには、入と空という文字が鍵の部分に記されており、恐らくこれは鍵の開閉で文字が切り替わるものだろうと読む。
因みに一番こっち側のトイレには入、と記されている。
「うっ、これ以上はやばい……」
そう思って入と記されてあったドアの1つ隣を開けた瞬間……
「くっさ!!!!!」
鼻を刺激する汚物の匂い。
最早刺激臭である。
心なしか目も痛くなって来たような気がするが、それを耐えて個室内を見る。
便所は座れるようだったが、奇怪な形をしている、それにこの臭い……恐らくこれは汲み取り式。
俺が居た世界じゃそんなことはなかった、訳の分からないところで文明が発展していないのは何とかしてもらいたい。
「うげえ……早く済ませて出よ……」
とは言ったものの今の刺激臭で神経がイカれでもしたのか小便1つ済ませられない。
出ないのだ。
勘弁してくれと心の中で嘆きながら苦悶の表情で座っていると、隣の個室から声が聞こえてきた。
「……行ったか?」
低く、どこか逞しさを感じる声。
行ったというのは俺のことを指しているのだろう。
それにどっかで聞いたことある気がするが気のせいだろう。
というかこんなところで何をやっているんだ?
自慰なのか?励んでしまっているのか?
「恐らくは、な」
聞こえてきたのはさっき喋っていた人とは違う声。
こちらも壮年の男性を思わせる声色であった。
……俺は今とんでもない現場に居るのかもしれない。
いや確実にとんでもない現場にいる。
歴史の証人になれる気がしないでもない。
【闘技場トイレの個室での悪夢!ジジイとジジイの相互自慰を目撃!】
語呂が良いね。
いや相互自慰かは知らないけど。
受けと攻めに分かれているのかもしれない。
……はっ!新聞記者にインタビューを受けて答えた結果その夜怒ったジジイとジジイに呼び出されて3人でまぐわうところまで想像してしまった!
俺は多分この刺激臭と隣の声が信じられなさすぎて狂ってしまったらしい。
「……これは音が漏れないか心配だな……」
話し始めたのは最初に話していたジジイ。
もう面倒なので仮にジジイ1としようか。
「大丈夫……この個室だけに音が聞こえるように防音結界を張っている」
随分と慎重な野外プレイだなおい!
違うだろ!そんなスリルもへったくれもない野外プレイで満足してんじゃねえぞ!
いや、なぜかここに音漏れまくってるけど……
つか俺何言ってんだろ……
直後、ジジイ2がとんでもないことを言い出す。
「ふふ、流石はウェズリー。
国王様万々歳だな」
この国はもうダメだな、どこか遠くへ行こう……




