ある男と甲冑少女2
「早速ですが貴賓席にご案内させていただきます」
事務的な口調でそう告げたシャルル。
場所は闘技場の外である。
些か昨日よりも人が多い気がするが、気のせいではないだろう。
しかし俺は先程の話でまだ聞けていないことがあるので、シャルルに話しかける。
「なぁ、甲冑少女さんよ」
「なんでしょうか?」
言葉だけ抜き取れば違和感はないが、彼女はめちゃんこ嫌そうな顔をしていた。
他の人たちも早く闘技場に入りたいのか、うずうずしながら俺たちの会話が終了するのを待っている。
しかしまぁ大事な話だ。
きちんと聞いてもらわなければ困る。
「これさ、悪いけど……」
俺はそこで一旦区切る。
案の定、彼女はその言葉の真意を問うように眉を曲げてみせる。
それに、俺の知り合いの救世主達は今までにないほど真面目な俺の雰囲気に晒されて幾分か顔が強張ったようにも感じられた故か、緊迫した空気が俺たちの間に張り詰めた。
そしてそんな中シュリアは立ったまま寝ていた。
「……俺、多分ある程度の成績とか無理」
唖然。
今の皆の状況にはその言葉が1番似合う。
何を言うのかと思ったらこれだ。
というのは闘技大会での話だ。
俺がある程度の成績を残すことは恐らく不可能……というわけなんだが完璧に切り出すタイミングを間違えた。
スルトやカールは、なんだそんなことかよ的な目線でこちらにジト目を送るが、男のジト目など路肩の石の武勇伝の次くらいにはどうでもいい。
正直これから投げられる甲冑少女からの暴言で俺は灰と化すだろう。
「ああ!忘れてた!!」
ん?反応がおかしい……
怒鳴ってくるかと思いきや、端正な顔をピクつかせながら木葉のような色に顔を染めるシャルル。
……こいつまさか俺が弱いのに気が付いてた上で買収とかやろうとか思ってたのか?
いやまさかな、流石にそんなことはないだろう。
「やべえ……作戦考えてくるの忘れたよぉ……買収工作とか今からじゃ間に合うかどうかもわかんないしなぁ……」
……ギルティ。
まあ今の状況でボケなどに反応する俺ではない。
俺にはこいつのミスを叱責する権……義務があるのだ。
「そ、そうだ!
貴方が迫り来る猛者をバッタバッタと薙ぎ倒しててっぺんを取ればいいのです!!」
「だからそれが無理ってんだろこのボンクラ!居るだけで気温を上げる男みてえな暑苦しいこと言いやがって!」
今のじょ、状況で……ぼ、ボケに……反応するお、俺では……
俺たちは数分に渡って言い争っていたものの、結局収拾がつかなくなり、俺と同じブロックになった奴が俺との激戦を演じることに決まった。
それまでは俺が頑張って敵をバッタバッタ薙ぎ倒すらしい……冗談じゃねえぞ。
飛んだ八百長である。
まあ流石は異世界選抜メンバーと言ったところでそれに反論するものは誰一人居なかった。
俺はそれを眺めながら、ああやだやだ、現実を一度学んじまうと人が腐っていけないね、とか悪態をついていたがまあこれは俺の中じゃセーフだ。
とりあえず話の中で、もういっそ会場をぶっ壊してこの中の誰かが怪人役をやってそれを俺が退治しちゃえばいいんじゃないかとかいう訳の分からない意見が出ていたのだが正直俺の理解に及ばなかった。
どこのヒーローショーだ。
というかそんなんやる意味がない
おい、そこの呑気にあくびかいてる金髪野郎。
お前だよお前。
「……では気を取り直して貴賓席にご案内しますので、こちらへお越しください」
と言って向かっていったのは昨日俺たちが入った受付、ではなく裏口と思わしき場所だった。
闘技場に面しているというのに人は然程見かけない。
シャルルはその扉を押し開けて、俺たちに入るように促した。
それに従って入ると、暗くて狭い場所に出る。
しかし、上へと続く階段がありその向こうから陽の光が漏れてきていた。
「ここから先は一方通行です、階段になっていますので気をつけてお進みください」
「はいよ」
誰が言ったのかは知らないが、その声を皮切りに皆は階段を登り始める。
階段を石で出来ていて、歩く度にコツンコツンと小気味の良い音を鳴らすが、階段を登って行くほどに近づく闘技場内の色めき立ち、騒ぎ声、騒音が耳を穿ち足音などもうとうに聞こえなくなっていた。
騒めきを間近で感じられるようになったくらいで、俺たちは階段を登り切りその熱気に当てられる。
……その先の光景に俺たちが目を奪われたのは言うまでもないだろう。
まあ俺2回目だけどね。




