ある男と闘技場2
とは思ったが、実際体感時間そんなにかからなかった。
光景が新鮮だからかな?
既にここは闘技場の中、まぁ受付専用のスペースなので石壁石床と殺風景極まり無いものだが、意外と広く、ここからでは全容が把握できない。
壁に鹿の首みたいなものが吊るされていた時は流石にビビったが……
長蛇の列を並び終えた俺とシュリアは受付のカウンターまで辿り着く。
3列あった長蛇の列は、闘技場内に入ると同時に8列程に枝分かれしていた。
そりゃまぁ3列だけでこの人数回せるはずもねえよなぁ……
カウンターには手の平サイズの紙が30枚程度重なっているのと、ペン以外は何も置かれてはいない。
折角広いカウンターなのに殺風景だ。
他の受付カウンターもここと大して変わらない。
受付には綺麗な女性でもいるのかとは思ったが、蓋を開けてみればゴツいおっちゃん。
ファイルとペンを持ってこちらを見ている。
というよりかはカウンター越しに俺たちを睨んでいる。
もっと言えば俺を睨んでいる。
いや何故に……?
「あのぉ、すいません。
ここで観戦の申し込みができると聞いたんですけど」
それに勘付いたのか、気を遣ってシュリアの方から声をかける。
すると受付のおっちゃんは依然として険しい表情を崩さずに、無愛想に答えた。
「このペン使ってそこに記入しな」
シュリアに手渡されたのは彼が持っていたファイルに挟まれていた1枚の紙とカウンターに無造作に置かれていたペン。
紙の大きさは丁度俺の両腕にすっぽり収まる程度のものだ。
フルネームでの名前、性別、ここに住んでいない場合だけ現在泊まっている宿、の4項目を記入しなければいけないらしい。
しかし、渡されたシュリアは石のように固まって動こうとしない。
「固まってないで早く書かねえと後ろからヤジ飛んでくんぞ」
俺が呆れながらそういうと、彼女は俺の方を見て青い顔をしながら言った。
「……私達、この世界の文字読めない」
……?
完璧に読めますけど?
「そんな顔から血の気を抜かして何を言ってんだお前?芸か?芸なのか?遂にお手とちんちんに次ぐ新しい芸を覚えたのか?」
ほとほと呆れた。
何を言っているんだこいつは……
「えっ!?ゆーさ君読めるの?
私読めないよぉ?」
俺の罵倒に反論もしないなんて……嘘を吐いているようには見えない。
流石のシュリアでもこんな訳の分からない冗談を吐くわけもないか……
てことは、本当なのか?
他の救世主がどうなのかも聞いてみる必要がありそうだ。
頑張れ未来の俺。
「字とかの話後でな、さっきから受付のおっちゃんが親の仇でも見るような目で睨んでっから。
俺がお前の分も書いてやっから本名教えてくれない?
俺お前の本名聞いたことねえし」
彼女はまだ頬を膨らませていたが、諦めたように言う。
「はぁ……
というか言ってなかったっけぇ?
シュリア・クロムヴェルだよ」
「ん」
俺は短く反応を述べ、紙に字を書き連ねる。
「はいどうぞおっちゃん」
書き終えた俺はおっちゃんに紙を渡した。
「……早く行け」
凄い嫌そうな顔をして俺に机に置かれていた紙を差し出すおっちゃん。
そこには、567番とだけ下手くそな字で書かれている。
正直なんのことだかさっぱりではあるのだが、後ろの人達の目線が若干殺気を孕んで来てるのでとりあえず退こう。
しかしまぁこの人俺のこと睨みすぎだろ……俺の容姿とかにこの世界で生き辛い要素でもあるのか?
たんこぶを頭にくっつけてる時は奇怪なものを見るような目線が殆どだったが、たんこぶを直したあたりから少し周りの人間からの視線が妙だ。
字のことといい何か関係があるのかもしれない……
とそこまで思考を巡らせ、シュリアと共に受付から去る。
その時俺は聞いてしまった。
後ろにいた受付の呪念を籠めた呟きを……
「……リア充爆発しろ」
……じ、字のことといい……何か、か、関係……が
「あ、そうだゆーさ君」
シュリア、なんだ俺にはもう返答する気力がないんだ……
ん?なんか声のトーンが低い……?
見れば彼女はハイライトの消えた目で俺を見据えている。
「さっき芸とか言ってたの忘れたとは言わせないからね?
あとでお話ししよっか?」
……ごめんちゃい。




