ある男と闘技場下町2
「痛え……あいも変わらず可愛げがなさすぎるぞあの女豹」
シャルルは俺を放り投げた後、すぐ何処かに行ってしまった。
俺は今部屋の中でくたばっている訳だが、とりあえず部屋の内装を確認する。
木製の丸テーブルと椅子が真ん中に置いてあり、ベッドがその横にある。
雰囲気とよくマッチしている茶色の本棚には、何冊か本が置かれていた。
どうということもないありきたりな宿といった感じだが、シーツが純白と言える程綺麗だったり、木目調の床の隅々まで掃除が行き届いているところを見るとやはり救世主、宿もVIP待遇なのだろう。
こちらは外に面している部屋ではないため、窓がないのがちょっと不満だが、別に対して気にするようなことでもない。
静寂が空間を支配する。
「……うん、めちゃんこ暇なんですけど」
闘技場でも観に行くとしようか。
別に闘技場に勝手に行くぐらいで、お咎めはないだろう。
「んじゃあいっちょ行きますかぁ」
俺はそう独り言を零し、部屋を出て左に曲がり、そのまま螺旋状の階段を降りる。
別に誰かに会うということもなく、一階まで辿り着いたが、一階についた途端に髪を刈り上げているおじさんを見つけた。
彼はソファに座って居た為、このままでは彼の背中しか見えないのだが……
確かこの人馬車の中に居たよな。
別にシャルルに怒られるのが怖い訳ではないが、どこに行ったのかくらい伝えておいて損はないか……
「おじさん、ちょっとお姫様に伝えて欲しいことあるんだけど頼めっかね?」
俺が少し申し訳無さげにそう告げると、おじさんは振り向く。
顔立ちにあまり特徴はないが強いて述べるとしたら、少しだけ生えた顎鬚、この街の人たちと比べても高い鼻、東洋人ぽいのっぺり顔が特徴のダンディな雰囲気を醸すおじさん。
って感じだろうか。
これはおっさんといったほうがいいだろう。
「あら、いいおと……!?」
何を言おうとしたのか知らないが、おっさんは一瞬硬直状態に陥りながらも俺を凝視してくる。
「いや、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……頼まれてくんない?
いや別に無理にとは言わねえし大した事じゃねえからさ」
なんだ?そんな嫌か?
腹黒シャルルたんによってあることないことが吹聴されでもしたのかね?
と考えた俺は、そう付け足した。
「え、えぇ、別にいいわよ。
何かしら?」
この人喋り方おかしい……
とは思ったが、俺は昼食の時間までには帰ってきたいので余計なツッコミをせずに言葉を繋げる。
「助かるわおっちゃん、俺のことを他の奴らが探してたら闘技場の方行ったって伝えてくれればいいよ」
「えぇ!?……えっと、分かったわ。
そう伝えといてあげる」
何に驚いているんだこの人は……
「後、私はおっちゃんじゃなくて乙女よ!失敬ね!
ガイ・シュラーク!序列は9位!」
シュラークは驚くのをやめて、腰をくねらせる珍妙な動きをしながら怒り出す。
……乙女要素を名前と風貌が掻き消してるんだよなぁ
「そ、そうか。俺は序列1位の志乃優沙だ」
俺は引き気味にそう答えてこう続ける。
「じゃあ俺もう行かねえとだから、じゃあな」
「えっ!本当に行くの!?」
早乙女は目を見開いて驚くが、俺はもう宿の扉から片足を出していた。
だから聞こえなかった。
彼の最後のセリフが……
「頭にあんなでかいたんこぶ作ってよく外を歩けるわね……」




