ある男と闘技場下町
その後も俺達は適当に駄弁りながら石畳の道を行く。
恐らく俺がキャリッジから出てから時間にして数分程度だろうか。
「着きましたよ、とりあえずチェックインを済ませてしまいましょう」
そう言ったお姫様が立ち止まったのは木造で5階立ての建物の前。
入り口の扉の上に、【ヤドリギ】と書いた看板が下げられているので、ここが俺たちが数日泊まることになる宿屋だろう。
小綺麗に掃除された外装は、年季を感じさせないし、周りが石造りの建物ばかりな中で木製な上、赤褐色である為よく目立つ。
人の目を惹くように計算して作られているのだろう。
「だってよ、行こうぜ」
カールのその合図と共に、俺達は先に宿に入っていったお姫様を追う。
宿のロビーは思ったよりも広く、緑黄色のソファーが3台もある。
下には黄緑色のカーペットが敷いてあった。
お姫様は既に、カウンターの向こうにいる宿屋の主人と話をしている。
腹黒シャルルちゃんはそれに付き従うような形で傍に控えていた。
別にすることもねえしソファーにでも座って待っとくか。
そう思って足を動かす。
が、
「んにゃぁぁ」
一つ目のソファーにはシュリアが寝ていた。
だめだありゃ……
溜息を零して二つ目のソファーを見ると銀髪ちゃんとレイスが談笑している。
あそこに入ったら殺される……
諦めて三つ目のソファーを見ると、年を食ったおじいちゃんとやたら背の低い婆さんが座っていた。
ああ、この人達も救世主だったな。
しかしまぁ、こう見ると凄いなぁ……
知っては居たけどこんな人達まで。
この世界の人間から見たら異世界選抜オールスターズじゃねえか、俺の心臓に宿りし厨二心が目覚めてしまいそうだ。
んで、俺の席はないんですね分かります。
仕方ねえ、観光でもしようか。
「俺ちょっと出てくるわ。
お姫様とかになんか聞かれたらよろしく」
俺はさっきお姫様と仲睦まじそうに話していた金髪の青年に声をかける。
お姫様と全然話してなかった奴に言ったって仕方ねえしな。
「えっ、あっ待ってください。
これから部屋へ案内して下さるそうですよ?
で、結局誰なんですか貴方は?」
「ああ、悪いね。
まだ言ってなかったっけ。
序列1位志乃優沙、志乃がファミリーネーム。
そういうお前は?」
俺が序列1位がここに来るってことは事前に救世主全員に伝えられていたのだろう。
彼は俺が序列1位だと言っても驚くような反応は示さずに答えた。
「やっと名前分かった……
僕はスルト・T・ガッシュです。
年齢が17歳で、固有属性は【正義】です」
固有属性ってなんぞや。
俺がそんな表情で首を傾げれば、彼は気付いたようで慌てて説明を始める。
「あっ、そうですよね。
固有属性があるのは僕の世界だけですもんね。
固有属性っていうのはその名の通り世界で1人しか持ってない属性のことです。
この属性を持ってる人っていうのは僕の世界の世界人口七千万人の内で100人にも満たないと言われているほどに貴重です。
発現方法は、思念、才能、努力、継承、とかで様々、つまりまぁ正確には分かっていませんってことですね。
んでもって僕の固有属性【正義】は、相手が自分よりどれだけ強い場合でもその相手と渡り合えるくらいまで自身の能力を引き上げてくれるってやつです。
発現出来たのは継承と思念のお陰です。
まぁ、渡り合えるってだけなんですけどね」
そう言って彼は苦笑いを一つ。
うんうん、なんかこの世界のことといいこいつらの話といい、全部頭に入れてたら脳が狂う気がするよ。
くだらないことを考えていると、透き通った綺麗な声が耳を突いた。
「皆さん、チェックイン終わりましたよ。
今からお部屋に案内してくれるそうなので行きましょう」
それを聞くと、スルトは少し申し訳なさそうに言う。
「すみません、長話になっちゃって……
じゃあ行きましょうか」
「んだね」
これ、俺ら側から見たら遠足に来た先生と生徒だからな、勿論引率の先生がお姫様。
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そして、俺たちは部屋に案内された。
廊下は人が3人横に並んで通れるくらいの幅で、独特の木目調がいい味を出している。
壁には手摺が付いてあった、恐らく御年寄や身体が不自由な人の為のものだろう。
俺の部屋は504号室。
腹黒甲冑少女ことシャルルちゃんと遠足の先生系姫さまことエルザ?ちゃんの右隣である。
お姫様の身を守るとかでシャルルとエルザだけ相部屋っぽい。
因みにシュリアちゃんとカールという名のサルとスルト君は二階らしい。
今までありがとう、お前らのことは一生忘れないよっ!
因みに左隣は階段です。
「とりあえず部屋の前に突っ立ってないで入ったらどうですか?」
綺麗でどこか棘のある言葉に振り向くと、シャルルちゃんがいた。
甲冑を全て脱いだその姿は美しく、白銀の髪色と雪のような肌、紅色の目は秀美極まるが、突き刺すような目線がそれを台無しにする。
綺麗な二重瞼と主張しない整った眉も、俺を威嚇するように吊り上っていた。
……つかまぁ実際に威嚇してんだろうけど。
初夏にも関わらず、腰のところを紐締めで留めてあるタイプの青ワンピを着ている。
「うっわ辛辣だわ、シャルルちゃんそんなんじゃモテねえよ?」
俺がおどけてそう言えば、彼女は赤の双眸を光らせた。
「ごちゃごちゃ言ってないで早く入ってください、目障りですし耳障りです」
「あーはいはい、分かった分かった。
じゃあね」
俺はそう言って【503】号室のドアノブに手を掛ける。
シャルルちゃんは、やっとどっか行ったか。という風に溜息を一つ零すが、ついに何かに気付いたようだ。
「ん?あいつが入ってった部屋……503……?
503……!?」
とか聞こえるが知ったことではない。
意気揚々とそのまま部屋に入ろうとすると、肩に手を掛けられました。
「そっちは貴方の部屋じゃないでしょう?」
眼の色が冷奴さんですね。
俺は肩に乗せられた手を身体を捻って退かし、503号室の扉を開けて中に転がり込もうとする。
「ははは、どうしたんだいお嬢ちゃん?
そんなに慌てて」
よし行けるっ!!
「おい待てゴラ死に晒せ変態野郎!!」
ぶん殴られて引き摺られた挙句504号室に投げ入れられました。




