ある男とある……少女4
小鳥の囀り、鼻をつく朝の香り、陽光の照り返し。
それらが肌を撫でれば、意識は微睡みから少しずつ抜けていく。
寝ぼけ眼が灰色の天井が視界を埋めたところで、昨日あの後何をしたかを思い出す。
うん、彼女が部屋に戻った後暇だったので筋トレをしてすぐ寝た。
……思い出すまでもないほど何もしてないな。
体を起こし、鉄格子側に顔を向けると見えたのは黒髪ショートの少女、確か名前はババロア。
「あっ、おはよう」
……座ってトーストを頬張りながらこちらを見ている。
「俺の分の朝食を目の前で食ってんじゃねえええええ!!!」
俺の叫喚が牢に木霊した。
が、直後彼女は何事もなかったかのように自分の後ろの配膳台からトーストを取り出し、手渡してくる。
「残念でしたー!ゆーさ君の分はこっちでーす!!」
……悪戯が成功したガキみたいな顔と馬鹿にしたような台詞をセットで。
「殴りたい、この笑顔」
「そんなこと言ってもいいんですかねぇ?
君の食事は私が管理している!ということはつまり、君の生殺与奪は私が握っている!!」
と言いながら差し出したトーストを食べるような仕草を見せる彼女。
「五月蝿えよちょっと食わなくたって平気だわ!」
刹那、ぐぅぅという音が俺の腹から……
「しっかたないなぁ、そんなに食べたいって言うなら口移しで食べさせたげる!」
そうおちゃらけた彼女に無言を以って答える。
「……」
それが数秒続くと、彼女は顔を茹で蛸のように真っ赤にしてしまった。
……恥ずかしいなら言うなよ。
「で、お前さん今日はやけにご機嫌がよろしい様子ですけれども?」
最早涙目になってるので真面目な話題に変えてあげる俺は優しすぎるのではないだろうか?
将来の夢はガンジーです。
「久し振りによく寝れた気がする!
今日のシュリアたんは強いぞぉ」
「ああ分かった分かった……寝起きの頭に響く大声をやめろ……」
「あ、じゃあ私もう行くね、今日は闘技場行くらしいから早く出るってお姫様が言ってたし。
また今晩!」
嵐のようなやつだな……なんて思いながら俺は笑顔で送り出してやる。
気分は仕事に行く夫を見送る専業主婦だ。
「はいよ、またな」
さっ、俺は朝食……が無い!?
あいつ持って帰りやがった……
ぐぅぅ、と本日2度目の気の抜けた危険信号、それが案外心地よかったり。
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心地良くねえよ……死ぬ……朝飯抜き辛すぎ……
夕陽もついに落ちようかという時、俺はまた空腹に悩まされていた。
寝てなんとかしようと思ったが、昼にたっぷり睡眠をとった所為で全く眠くない。
ババロアとかいうエルフ許さん。
彼女への殺意を新たにしていると、階段を下る足音が聞こえてきた。
そのまま俺の前まで来ると、髪を手が掻き分けながら正座を崩したように座る。
……俗に言う女の子座りとかいうやつだが。
「ゆーさくーん、生きてるー?」
何を呑気なことを……
こちとら腹減って仕方ねえんだよ。
「ババロアてめえ!朝は俺のトーストをよくも!!」
声を捻り出して彼女に怒鳴りつける。
あれ?なんかこの子額に青筋立ってね?
「私はシュリアだよ!!!!」
耳が……潰れる……
でもまぁ、まだ無理してる感は否めないけど元気そうで良かった。
彼女が落ち着いたように口を開く。
「いやぁ、でもまぁあれはごめんねぇ。
悪気はなかったんだよぉ、勿体無いから私の昼食と化したんだけどね」
悪気はねえかもしれねえが悪びれもねえな……
つか腹減った……
「はい、とりあえず夕食持ってきたよぉ?
お腹空いてるでしょ?」
と言って皿を差し出される。
これを待っていたのだ俺は!
ん?
「なんか昨日より多くね?」
俺がなんの気なしに口に出すと、彼女は少し前髪を弄りながら答えた。
「ま、まぁ、一応お腹空いてるだろうし、私の分もちょっと」
髪で隠れてあまり見えないが、恥ずかしそうに目を伏せている。
「天使かお前は!!」
何を言っているんだ俺は……
もう自分でも訳が解らない、コミュ障をこじらせ過ぎたか……
しかし反応は意外なもので、
「そ、そういうこと大声で言うなよぉ」
と、少し頬を紅に染めながらこちらを見上げている。
めちゃくちゃ返事に困るんですけど……
「あ、えっと、ごめん?」
気まずい……
沈黙が辛い。
こっちが先に耐えきれなくなったので話しかける。
「俺もう食っちゃっていいんだよね?
腹減って仕方ねえわ」
会話下手クソか俺は……!
俺はコミュ障と言うことが発覚した。
「うん、どうぞ」
許可が出たので、夕食を食べ始める。
何が入ってるか全くわからないスープと、原産不明の鶏肉、それとオムレツみたいな何か。
文字で並べてしまえば怪しすぎて食えたものでは無いが、めちゃくちゃ美味かった。
目の前に座る彼女は、夜風に黒髪を靡かせながら俺の食いっぷりを微笑ましそうに眺めているだけ。
ここの雰囲気と彼女のオーラもあいまって、小さい頃読んだ物語のワンシーンを体現しているようにすら見える。
あ、こいつ涎垂らしやがった……
雰囲気ぶち壊しじゃねえか。
今度は長くなっちゃった……
まあいっか()




