ある……少女?と城下町2
その後私達は馬車に乗り込み、赤いふかふかの椅子に腰掛ける。
あっやばい沈む……
ここは天国かぁ、余は満足なりぃ……
あっ、序列5位のエロじじい!
徐に隣座ってきた。
ちょっ、肩寄せてこないでよ!
目がえっちい!!
「城下町の人達には救世主様方がいらっしゃると伝わっております。
城下町に入った瞬間に騒がれるかも知れませんがご了承下さい」
お姫様が説明を終えた後、会話は殆ど無かった。
まあ確かに昨日会ったばっかなんだからそんなすぐ仲良くなってるわけないか。
この城下町見学も、11人がある程度お互いが気兼ねなく話せるようになる目的もあるのかも知れない。
窓の外を見ればまだ森が続いていた。
それよりも奥に何か建物も見えるが、あれはなんなのだろうか?
「気になりますか?」
ふと、お姫様に柔和な笑みを向けられながら声をかけられる。
この子、昨日優沙くんに乱暴されそうになったにも関わらず、よくもまぁ転生者相手に気丈に振る舞えるものだ。
「あぁ、うん。
あの奥の建物ってなにかなぁって思って」
「あれは兵舎ですよ、我が国の軍隊があそこで毎日訓練をしているんです。
それと厩舎もあるので、王族がどこかに出かける時はあそこから馬車が出ます」
「今、馬車の騎手をしているシャルルって騎士も数ヶ月前まではあそこで訓練してたんですよ?
普通の人より転生回数が多かったためか、こっちに配属されてきたんです。
まぁ、私の友人だったていうのも大きいんですけどね」
シャルル……確か昨日ゆーさくんを思いっ切りぶっ飛ばした子だろう。
「あの子……私の近衛騎士を任されている割には若くて、それに平民だったから嫌がらせとか受けてたんですよね。
でも、昨日序列1位さんから私を守ろうとしてくれたのはシャルルだけだったんです。
アレがあってからはみんなシャルルのこと一目置くようになって。
個人的には序列1位さんには感謝したりしてます」
悪戯っぽく笑いながら彼女は言った。
よくもまぁ乱暴されかけた相手にそんなこと言えるもんだなぁ……
強がってんのかどうなのかは分からないが、図太いのはいいことだ。
「うん、それなら死んだ彼も浮かばれるよ……」
「死んでないですよね!?」
目に涙を溜めて空を仰ぐ私に、お姫様は叫んだ。
意外とキレのあるツッコミをするではないか。
しかしまぁ小柄な女の子にぶっ飛ばされて気絶したところを大勢に見られながら牢屋行き。
アレは社会的に死んだも同然でしょ……
私達が話し始めたことによって場の空気が緩んだのか、少しずつだが会話が増えてきた。
私は転寝をしていたので聞いていなかったが……
「着きましたよ」
キャリッジ特有のどこか心地良い揺れが止まったかと思うと、お姫様のそんな声が聞こえてくる。
その声で寝惚け気味だった私の意識は覚醒した。
「楽しみだなぁ」
誰かは分からないがそう呟いたのが聞こえた。
キャリッジの扉が開かれると、私達はキャリッジを降りるよう促される。
されるがままに降りると、眼前に広がるのは頑強そうな鉄の扉。
ちょうどこのキャリッジが1台通り抜けられそうな大きさだった。
しかし今はほぼ閉まっていて、人1人抜けられるかどうかってところだ。
そこに彫られた彫刻は美しく、見る者を魅了する。
私達はキャリッジを降りてその鉄の扉で待った。
気怠げそうにしていた門番が、お姫様の姿を見ると瞠目して扉の奥に駆け込んで行く。
中から先ほどの門番よりも値段が高そうな鎧を身に纏う筋骨隆々の軍人が現れ、お姫様に敬礼。
その後彼らは暫し話をした後、お姫様は笑顔を絶やさずこちらに小走りしてくる。
「もう入ってだいじょーぶでーす!!」
そう私達に伝えた彼女は一息つくと、
「セーバ王城のお膝元、ワルポルへようこそ!」
そう叫ぶ。
その後ろで、鉄を引きずるような音がして半開きだった扉が完全に開かれると、今まで隙間からしか見えていなかった街の全容が見えた。
目に飛び込んできたのは賑わい、人々の声が飛び交う活気ある街並み。
主に白い石造りの建物が立ち並び、稀に木造建築独特の木の色が垣間見える。
大通りには屋台が並んでいて、道行く人の表情には笑みが絶えない。
「うわぁ、すっご」
誰が言ったかも分からないが台詞だが全くの同意である。
とても異世界から救世主を召喚する必要があるとは思えないほどに。