表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

飛び込み自殺

 朝、通学途中の駅のホーム。

 人気のない一番端で電車を待ちながら、わたしは死ぬことを考えていた。やって来た電車に向って飛び込めば、わたしはそれだけで死ねる。あっけなく。

 それは、その時のわたしにとって、とても魅力的な提案に思えた。

 飛び込み自殺で電車を停めると、家族は損害賠償を払わなくてはいけないらしい。そこが特にいい。

 そう。

 その日、わたしは家で家族と喧嘩をしたのだ。だから、できるだけ家族を困らせる死に方をしてやろうと思っていた。

 あと少しで電車が来る。

 そこに飛び込めば……

 「やぁ、おはよう」

 不意に話しかけられた。

 驚いて横を見てみると、そこには隣のクラスの男生徒がいた。少しくらいは話した事があるけれど、友人ってほどじゃない。どうして話しかけて来たのだろうと不思議に思っている間にも、彼は色々と話しを振って来た。わたしは乗り気になれない。そんな気分じゃなかったから。

 ところが、彼はある時、こんな事を言ったのだ。

 「ほら、よく聞くだろう? 飛び込み自殺をして電車を止めると、損害賠償をしなくちゃならないって。

 あれって、嘘らしいよ」

 わたしは思わず聞き返してしまう。

 「嘘?」

 「うん。実際は、そんな気の毒な遺族に賠償請求なんてできないから、やらないんだって」

 ――それを聞いた途端、わたしは死ぬのがバカバカしくなった。

 家族を困らせられないと思った訳じゃない。逆だ。家族が困らないで済むと思って、わたしは安心を感じていたのだ。

 良かった、と。

 彼の話を信じた訳じゃないのだけど。

 これじゃ、何の為に死ぬのか分からない。

 「ふふ」

 そう笑ったわたしに、彼は「どうしたの?」と尋ねて来た。「別に」とわたしは返す。

 

 ……まさか、わたしの気分を察して、こんな話をしてくれた訳じゃないだろうけど、それでも、彼には感謝をしなくてはならないかもしれない。

損害賠償を遺族に請求しない

という噂を聞いた事はありますが、本当かどうかは分かりません。

多分、嘘じゃないかと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ