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俺のスペックはそこそこ高いはずなのだが  作者: ペーパードライブ
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彼女もやっぱり人生部である

 昨日は散々な一日であった。変な部活に入らされるは、社会不適合者認定されるやら、挙句の果てには毎週見過ごさずに見ていた機動天使パンダムを観れないやら。


 そんなことを思いつつ、放課後俺はしぶしぶと第三教室の扉を開く。


「失礼します、って、先生いないか」


 隅に置いてあった椅子を持ってきて、適当な場所に椅子をおいて腰掛ける。


 昨日と同じく、彼女はこちらには目もくれずひたすら本に夢中である。一つ違うのは、この部屋にまだ小林が来ていないことである。


あいつがいないとこんなにも静かなのだなー、と平穏を楽しみつつ、あまりにも彼女がこちらに無関心で、場を盛り上げる人間がいないので、いつもとのギャップに俺は多少混乱した。


 そうだ、奴がいない今こそ、彼女に話しかけるチャンスだ。この部に入る唯一のメリットなんて、学年一の天才美少女と仲良くなっておくこと以外になにがあろうか。


「あの、そんなに本面白い、んですか?」


 気さくに話しかけるつもりが、身にまとうオーラに圧倒されてつい目上の人と話すかのように敬語になってしまった。


いや、初対面で敬語使わないほうがなんかチャラ男認定されちゃうよな。やだ、俺って超誠実な人とか思われちゃったかも。


 脳内でべらべらと独り言をつぶやき、ただしゃべりかけるだけで生じてしまった多大な精神的動揺をやっとのことで落ち着けた俺だったが、こんな俺をだれが馬鹿にできようか。


 俺が話しかけると、彼女はは本をゆっくりと閉じてこちらに視線を向けた。


「面白いわよ。でも、初対面の人と話すときはまず自己紹介からじゃなくって」


「ああ、すみません。葛西典明です」


「佐藤瀬奈よ。よろしく」


 お近づきになっておこうという思いが先行しすぎてついうっかり自己紹介をすっとばしてしまった。相手が学校一の天才美少女だからってビビりすぎちまったぜ。


そう、相手もしょせん俺と同じ高校生、なにも恐れることはない。ああ、そういえば佐藤瀬奈だったっけ。今度はちゃんと覚えておかないと。


「それにしても、ずいぶん会話になれていないようだけど、あなた本当に高校生なの?」


「え?」


 突然初対面の人間に、仲の良い人間同士でも相手を気遣ってなかなか口にできないようなヘビーな言葉を浴びせられた俺は驚きのあまり返す言葉を考えられずにいた。


 あれ、この人って、そういうキャラだったの。


やはり人を周りの評価や外見で判断してはいけない、人間の本質とはそれを超えた内なる人格によって決定されるのだという結論を導き出した俺は、彼女の学内での評判で俺が勝手に作り上げていた彼女の素敵な内面と、実際のきつーい内面とのキャップによる衝撃を何とか飲み込み、相手に言葉を返そうとする。


 しかし、そんなくだらないことを考えている間に会話の主導権は彼女側に移ってしまったようで、彼女はそのまま続ける。


「今時、幼稚園生でも、『おら、野原しん○すけ、五才』って、ちゃんと自分からいえるわよ」


「おおー、そういわれてみれば確かに」


 俺の想像する佐藤瀬奈のキャラからは全く外れてしまっいる分野から具体例が出されたのでさぞびっくりしたことだが、いまだに視聴を毎週の楽しみの一つにしている俺にとって、何ともわかりやすい具体例であったので、反論するつもりだったが不覚にも納得してしまった。


さすがは天才、初対面ですでに俺の趣向を把握してしまっているとは……。こういうのは国語力の高さに分類してもいいんですかねー。


あ、でもなんかこの人が人生部に入れられた理由がなんとなくわかってきました。


 相手を言いくるめることができたのがうれしかったのか、少し勝ち誇ったような笑顔でこちらを見てくる。わー、僕はあなたの笑顔が見れてよかったです、まる。


「ってゆうかお前観てんのかよ?」


「ただの知識よ。あなたに分かりやすいような具体例を提示してあげたのよ。だってあなた、いわゆるオタクオーラってものに全身を包まれているものだから。そういう人って、こういう話をしたら喜ぶものなんでしょう」


「え、うそ!?」


 知らなかった。確かに俺がオタク要素を持っていることは否定しないが、ポーカーフェイスの俺はそれを外に出していない自信があったのに。


でも、何を言おうとも、あなたも視聴していた事実は変わりませんよね……。


ほら、オタクって、仲間を作りたがる傾向にあるからさ。君も仲間がほしかったんだろう、寂しかったんだろう、佐藤さん、なんてことを面と向かって言った暁にはぼこぼこに論破されて多大な精神ダメージを負ってしまうことは目に見えていたので口が裂けても言うことはできない。


「ところでお前、なんでこの部に入ったの?」


「お前はやめて。自分でも本当に情けないのだけれど、昨日のあなたと大体一緒よ」


 佐藤は額に片手の掌を当てて、本気で落ち込むような体勢をとって答える。


「いや、そんなにも自分を否定することはないぞ」

「遠回しなただの皮肉ってことに気づきなさい」


 額に掌を当てたまま、あきれたように答える佐藤。


 そんなことわかってんだよ。わらにもすがる思いで皮肉じゃない可能性にかけた俺の気持ちをなに徹底的に踏みにじってくれちゃってんの。


「私って、親しい友達とかいなくても特に人生困ったことはなかったのだけど、先生から絆を深めることの大切さを学べってことでここに入れられたのよ」


 佐藤が言い終わったところで、俺はふと疑問に思ったことがあったので、それを尋ねることにした。


「困ったことはないって、修学旅行の班決めとかどう乗り切ったんだよ」


「私って、生徒の高嶺の花だから。特に何もしなくても誘ってもらえるから、乗り切るだなんて試練に思ったことはないわよ」


「おい、顔が笑ってるぞ顔が」


 佐藤は俺に向って意地悪そうに微笑む。


 ついうっかり失言をしてしまい、またもや佐藤に馬鹿にされる隙を作ってしまった。


だってしょうがないじゃん、いつも変なグループに合流させられて肩身が狭いんだからそりゃ試練にも感じちゃうよ。ってゆうか自分で高嶺の花とか言っちゃったよこの人。


 教師は言った。人生部は人間関係を学ぶ訓練の場であると。だがこのまま佐藤たちと付き合っていくのは、俺の精神衛生上どうなのだろうか。


あ、精神科行ったらドクターストップもらえるじゃん! 俺って、あったっまいいー。

 


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