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モンブラン

当店自慢の「丹波」は、モンブラン系の一品で、小さなオムレット生地の中にカスタードクリームと生クリーム、ベージュ色の栗のクリームをあしらったものだ。何よりも、トッピングの丹波の栗の渋皮煮は丸ごと一個乗せというのが自慢だ。


モンブランといえば、黄色いクリームのものとベージュ色のクリームのものがある。前者は大きめのカップケーキの上に生クリームを乗せ、それを黄色いクリームで覆った状態のもの。後者はたいていの場合、タルト生地にカスタードクリームと生クリームを乗せ、それをベージュ色のクリームで覆ったものだ。俺はクリームよりも生地がメインの方が好きなので、前者の方が好きだ。


子供の頃、栗があまり好きじゃなかったので、モンブランは常に眼中になかった。しかし中学生の時、急に食べたくなって、買い物の帰りに買ってもらうことになった。

「どっちのモンブランがいい?」

「うーん…。わからない。」

「じゃあ、両方とも半分こしよう。」

ショーケースの前で決めかねていた俺にお袋の提案で両方とも買い、帰ったらすぐに半分この2種類のモンブランが皿の上に並べられた。

ドキドキしながらフォークを入れる。どちらのクリームも悪くない。栗は苦手だが、モンブランって美味いと思った。しかし、食べていくうちにベージュの方のクリームの多さが気になりだした。そして黄色いモンブランはスポンジとバランスよく食べると丁度良い。

「ごめん。ベージュの方、クリーム多すぎて苦手。スポンジのこっちが好き。」

そう言うとお袋は自分の皿の黄色い方を俺の皿に移して、ベージュの方を引き上げた。

「いいよ。じゃあこっちの残り、もらうね。朝日、スポンジ好きだもんね。」

見るとお袋のモンブランはまだどちらにも手をつけていなかった。食べずに俺の様子をただ見ていたらしい。今思うと、俺が気に入った方をこうして皿に乗せるために待っていたのかもしれない。決してよく気がつくタイプではなかったが、こういう時はさりげない気遣いをする女性ひとだった。

「いいの?手ぇ付けてないじゃん。」

「うん。朝日がおいしそうに食べているのを見ていたら、食べるの忘れていたの。」

その時のお袋も紅茶の湯気の向こうで微笑わらっていた。



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