ホワイトデー。
ホワイトデーまであと数日という今日。マカロンが飛ぶように売れていく中、たまたま俺が店頭に出ていた時に、小学3,4年生と思われる男の子が母親らしき女性と一緒に来店した。
まだ幼い顔立ちの彼は無言で焼き菓子やギフトのコーナーを難しい表情でウロウロしたのち、その中で特にかわいらしい色合いの「御チョコレート様」の包みを手にとり、母親に差し出した。
「これにする。」
「レジでお金を払えばいいのよ?」
「だって…。」
女性は仕方ないわねという様子で微笑むと包みを手にレジにやってきた。
レジのスタッフが金額を告げると彼は女性の後ろからそっと千円札を差し出した。しっかりと後ろに隠れて、まるで二人羽織りのように支払いをする彼は頬を赤らめてうつむいている。ホワイトデーのお返しを買いにきたのであろう。しかも好きな女の子からの。
「お待たせしました。」
「…ども。」
小さい紙袋を差し出すと、やはり後ろに隠れたまま、手だけがニューっと伸びてきてそれを受け取る。
「ありがとうございました。」
レジを離れるまで彼は二人羽織のままだった。
「ナニ?どんなチョコをもらったの?相手の子はどんな子?」と聞いてみたい気持ちをぐっとこらえて俺はお辞儀をして見送った。聞いてみたい。個人的に彼と恋バナをしてみたい。しかしお客様をからかうワケには。
店を出たところで母親に笑いながら何かを言われムキになっている様子がドアのガラス越しに見えた。微笑ましいな。
俺が初めて手作りのチョコレートを貰ったのは小学五年。当時の彼女の、なっちゃんのお手製。えらく甘かったのも良い思い出である。
「あら。元気そうじゃないの。」
思い出にふけっていると、ドアが開くと同時に懐かしい声が聞こえた。入り口に立っていたのは、あの甘い思い出の相手、なっちゃん。いやはやビックリだ。すっかり美人になった、元カノのなっちゃんと、コックコートのウエストが怪しい俺。なんだか格差を感じるぞ。
「久しぶりだな。」
「久しぶりね。彼にホワイトデーのお返しの、お使いを頼まれちゃって。」
「お前なあ、よく元カレの店でソレ言えるなあ。」
「昔のことじゃないの。妬いてんの?」
クスクスと笑う彼女。
「なワケあるかよ。何個くらい?予算は?袋入りでも良いなら、オススメはコレだけど。」
思わずつられて笑いながら、例のホワイトロッキーロードとブラウニーの入った小袋を見せる。
「へぇー。かわいいラッピング。カジュアルな感じね。ところでこの白いほうは何?」
「ホワイトチョコのロッキーロード。陽菜のオススメ。食べてみるか?」
店内はちょうどお客様が途絶えたところだったので、つまみ食い用から一かけら取ってきて渡すと、とたんに目が輝く。美人になってもこの笑顔は変わらないな。
「ありがとう。…あ。おいしーい!これにする。じゃあ10個。あ。自分用も欲しいから11個ちょうだい。」
「ありがとうございます。一袋、サービスしとくよ。また来てくれよ。」
笑顔でうなずく彼女に俺は12袋を紙袋に入れて渡すと、彼女はうれしそうに店を後にした。
なんとなくつきあって、自然消滅した彼女。当初は少し気まずかったが、今は久しぶりに会えたことのほうがうれしかった。
幼い少年の様子を見ていたら、俺もまるでタイムスリップをしたかのように懐かしい彼女に会えた。そんな
二つの甘い恋がふんわりとした3月の昼下がりだった。




