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長いはなし

作者: 駒村ゆう

 あるところに、髪の短い女の子がいました。

 女の子が街を歩いていると、女の人とすれ違いました。


 眼を見張るほどの美人。

 つやつやと長い黒髪が、特に印象的でした。


 女の子は、心の中でその女の人を「髪長さん」と呼ぶことにしました。そして、自分も髪を伸ばそうと決めました。


 一日目。

 そうそうすぐには伸びません。早送りしましょう。



 一年目。

 ミディアムくらいにはなりましたが、髪長さんのように颯爽と髪をなびかせるには、まだまだ長さが足りません。女の子はもっと髪を伸ばそうと、昆布をたくさん食べました。(信ぴょう性は知りません)


 二年目。

 そこそこ長くなりました。お母さんはいい加減髪を切れ切れとうるさいです。でも、女の子はガンとして首を縦に振りませんでした。代わりに、女の子だけのお遊戯やお歌の会に参加して、女らしさを磨くレッスンを受けました。


 三年目。

 髪はもう腰のあたりまで伸びています。ヒラヒラのスカートをはいたり、頭にリボンを乗せたりして、クラスでも人気の美少女さんと呼ばれました。

 でも、まだまだ彼女は満足しないようですよ。それじゃあもう少し早送りしてみましょう。


≫≫


 十年目。

 髪は地についています。明らかに伸ばしすぎです。女の子ももういい加減いいお姉さんなのですが、性格はあまり成長していないようですね。

 お母さんが夜中にこっそりハサミを持って部屋に入ったら、ものすごい勢いで蹴り出されました。

 絶対に髪は切らない!という、強い意志が伺えますね。



 二十年目。

 女の子は「結婚したいな」と思うようになりました。でもなぜでしょう?女の子と結婚したがる男性は、待てども待てども現れません。ある日彼女は「もしかしてこの髪の毛が長すぎるのかしら?」と考え、頭を振りました。こんなに綺麗な長い髪を見て、嫌がる人なんているわけない、そう思いました。

 髪はもう四メートルほどに伸びています。



 三十年目。

「どうして結婚できないの!」

 おばさ…女の子は叫びます。

 みなさんはお気付きでしょうが、女の子が結婚できないのは、髪の毛のせいではありません。異常な長さの髪を切らなければ話にならないことに気づくことができない性格のせいで、みんな彼女を敬遠するのです。

 お母さんは、夜中にひとりでハサミをチョッキンチョッキン鳴らすのが趣味になりました。大丈夫かな?



 女の子が四十歳をこえたとき、街に大雨が降りました。バケツをひっくり返したような雨が、何日も何日もつづきました。

 そして、川が氾濫しました。


 幸いなことに、女の子の家は被害に遭いませんでしたが、すぐそばの家の道路まで水はやってきて、しばらく濁流が止まりませんでした。

 女の子は、家の二階のベランダからその光景を眺めていました。髪はもう十メートル近くになっています。


「助けて!助けてくれ!」

「いいや、こっちだ!こっちを助けて!」


 ふたりの男の人が、濁流の中で叫んでいます。女の子はビックリして目をやりました。


 ひとりは、若くて爽やかなイケメン。もうひとりは、くたびれた太ったおじさんです。どちらも苦しそうに手をあげ、助けて助けてともがいています。


 女の子は迷わず叫びました。


「お母さん!私がお兄さんを助けるから、お母さんはおっさんのほうをお願い!」


 呆れ返るお母さんをよそに、女の子は髪の毛の先に適当な重石をくくりつけ、グルングルン回してから「ヤッ!」と言って、イケメンのほうへ投げてやりました。

 イケメンのしなやかな腕が女の子の毛を掴みます。


(あぁ、なんて劇的な出会いなんでしょう。あの人を助けるために私は産まれたに違いないわ。今日この日のために、私は髪を伸ばし続けていたのね。)


 おばさ…女の子はそう確信しながら、慎重に髪を引っ張りました。イケメンが思いのほか重かったのです。


「ありがとう、髪の長いひと」


 陸に上がったイケメンは、真っ白な歯をキラキラさせて笑いました。眩しいほどの笑顔に、女の子は胸がドクンドクンと高鳴り……ませんでした。

「あなたは僕と、僕のフィアンセの命の恩人です」


 イケメンの背後には、とても綺麗な女の人が背負われていたのです。女の人は水を飲んだのか少し苦しそうでしたが、しっかりと地面に立って、言いました。


「これで式が挙げられます。本当にありがとうございました」


 ペコリと下げられた女の人の頭を見て、女の子はゴクリと息を呑みました。その髪型は、真っ白なうなじが色っぽい、ベリーショートだったのです。


「ありがとう!髪の長いひと!」

「ありがとう!ありがとう!」


 そう言ってふたりは仲睦まじく去って行きました。

 女の子の後ろで、お母さんにようやく助けられたおじさんがゲホゲホと水を吐いています。

 こちらも無事なようですね、よかったよかった。


 意を決したように、女の子がつぶやきました。


「お母さん」

「なぁに?」

「私、髪切るわ」

「!!?!」


 ヨダレを垂らしてハサミを鳴らしながら近付くお母さんをよそに、女の子は思います。


 これできっと、結婚できるに違いないわ。








 さて、女の子は結婚できたのでしょうか?

 望みを濃くするには、少々難のある性格を直したほうがいいかもしれないですね。






はい、おやすみ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 要点だけ書いたさっぱりした文章で面白かったです。 主人公は、優しくていい人ですね。
[良い点] どういう話になるのかなと読み進めて、ギャグかなと思い、更に読み進めたら、感動物になるかと思い、最後まで読み進めたらギャグだったところ。 結局ギャグかいな、でも面白かったです。 [気になる…
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