刃物を研ぐこと
大工には欠かせない、刃物の研ぎの話です。
鑿でも包丁でも、刃物は、当たり前ですが、使うほどに切れ味が落ちていきます。
それを砥石と擦り合わせて、研磨して、鋭くするのが「研ぐ」ということです。
研ぎに使われる砥石にも種類があり、粒の粗さ、組成物の種類、硬さ、大きさなどで、使い分けていきます。
また、よく売られている人工の砥石とは別に、天然の砥石というのもあります。
京都などの山から、掘られ、削られ、形作られて商品になります。
この天然砥石には、安いものはもちろん、高いものは100万円単位の値が付けられることもあります。
砥石の違いだけでなく、刃物に使われている鋼によっても差が出ます。
この鋼にはこの砥石で研げばいい刃がつくが、こっちの鋼に使うととてもなまくらで使い物にならない…なんてことも。
個人の研ぎの癖や、好みもあるので、万能の砥石は存在しないことになります。
もちろん、どれだけいい砥石を持っていても、研ぐ腕がなければ意味がありません。
研げるようになるまでは箒以外の道具に触らせてくれない親方もいるようです。
そのため大工の見習いはひたすらに、夜遅くまで練習します。
とはいっても、研ぎ始めれば集中することになるので、3,4時間なんてあっという間に過ぎますが…
私自身長いときは、夜の7時から、日をまたいで朝の3時まで研いでいたこともあります。
さすがに体がかちかちに固まってしまいましたが…
それでもまだまだ未熟で仕方ないと感じます。
少し慣れてくると、写真のように刃物が砥石に引っ付いて自立するようになります。
私はまだ未熟ですので、写真のような軽い刃物しか立ちませんが、すごい人はどんな刃物でも立たせられます。
そのうえ、吸着力が強すぎて砥石が持ち上がるというので信じられません…
作中にも出てくる鉋の刃は、ミクロン単位の精度が要求されるため、特に個人個人で研究されています。
鉋掛けのときに出る鉋屑、薄いものでは3ミクロンにもなります。
八割の普通では満足出来ず、死に物狂いの残りの二割を求めた人だけが到達できる境地でしょう…信じられません。
ちなみに、薄さを極めずに削った鉋屑は20から30ミクロンだそうです。
面白く、飽きない研ぎの世界、興味があればぜひどうぞ。
鉋屑の薄さを競う大会では、大工を差し置いて電気屋さんが優勝したこともあるようなので、誰にでもチャンスはありますよ。
以上、刃物の研ぎの話でした。