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気付いたこと

工場に着くと、今朝も亮太郎は何か作っていたようだ。

手早く片付けて準備に取りかかっている。


「おはようございます!!」

7時47分。

今日は大悟が少し早い。


材木の加工ももう少しなので、明日には現場に出られるだろう。

亮太郎は早速鉋をかけている。

昨日また遅くまで研いだのだろう。

まずまずの仕上がり具合になっている。


大悟の方といえば、彼はノミで下地をつついている。

慣れない手つきで玄翁(金槌)を降っているので、いつ手を叩くかひやひやだ。


「あだっ!」


ほら、言わんこっちゃない。

彼は親指の付け根を擦りながら周りを見る。

私と目が合うと、気まずそうに鑿を持ち直す。


「びびって、弱くはたいてたんじゃ成長しないぞ。痛み我慢してでもきちんと玄翁使え。」

私にそう言われて意地になったのか、強く鑿を叩き始めた。

きっと、今日のうちに少なくとも一回は、あだっ!を聞くことになるだろう。



仕事を終え片付けていると、亮太郎がやってきた。


「すみません静さん、今日、何の日か覚えてますよね?」


私は胸に小さな釘が刺さった気がした。


もちろん覚えている。

今日の、そう、ちょうど2年前の。

親父が死んだ日。

何も無かったかのように過ごそうとしていた。


「あの、変なことなのは分かっているんです。今日は親方が亡くなった日だから。」

亮太郎が続ける。


私は彼に目を向ける事もなく道具をまとめる。


「静さんに、これ、作ったんです。」

差し出されたのは一本の墨差し(竹で出来た筆)だった。

「俺に…か?」

正直戸惑った。

親父の墓に、ならまだわかる。

入社したばかりとはいえ、亮太郎も親父に可愛がられていた。


「静さんに、です。」

亮太郎は繰り返す。


「今日は、親方の命日であると同時に、静さんが俺の親方に、師匠になった日でもあるんです。」


私は驚いた。

そんなことは考えたこともなかった。

ただ、親父が残してくれた日向木工所を潰すまいと必死だっただけだ。


「これからも、よろしくお願いします。」

亮太郎が深く頭を下げる。

こんな流れ、聞いてなかったのだろう。

理解しきれていない顔の大悟も慌てて頭を下げる。


「そうか…。」

言葉が出なかった。

今日は、親父が死んだ日、だけではなかったのか。


「そうか…。」

ようやく、自分が日向木工所をまとめる、この二人の拠り所なのだと気付いた。

私は深く息を吐いた。


「牛丼屋でも、行くか?」



外は雨が本降りになっている。

今日、梅雨入りしたそうだ。


日向木工所も、雨の中、また始まった。

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