表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の死後、私と妹【連載版】  作者: 小林晴幸
私と妹と、貴族の館
18/39

9.5/わたしとおにいさま

 いつ、ねちゃってたんだろう。

 夜、よなか。

 なにも見えない、まっくらやみ。

 まだまだ朝まで、うんととおい。


 くらい中で、目がさめて。

 見えるところ、ぜんぶ夜で。

 見えるものなんて、なにもなくって。

 

 こわくなった。


 ずっと、ずっと。

 夜はひとりでおやすみなさい、してきて。

 たったひとりで、目がさめるなんて、いつものことで。

 ……いつものこと、だったのに。

 こわいの。

 こわいの。

 とても、こわいの。

 見なれた、たったひとりの夜だったから。

 思ったの。

 ああ、やっぱり。


 ぜんぶ。

 いままでの、ぜんぶ。

 ユメだったのかなぁって。

 

 なにも見えない。

 だから、前とおんなじ。

 ここは、ばしゃじゃない。

 『おにいさま』は、ここにいない。

 『おにいさま』も、ばしゃも、だだだ……?もいない。

 やっぱり、ぜんぶ、ユメだったのかな。


 おきる前、ねる前。

 いつねたのか、ぜんぜん思い出せないの。


 すごく、すごくうれしかった。

 とても、とてもたのしかった。

 ものすごく、見えるものがキラキラして。


 ああ、これが。

 『おかあさま』の言ってた、『とくべつ』なのかなって。

 

 そう思ったのに。

 

 ユメだった、の、かなぁ……。


 なんだか胸が、しめつけられた。

 目から、ぽろりって。

 ほっぺに、あついものがころがってくる。

 なみだ。

 くち、からも、へんなこえが。

 もうずっと、ずっと前にも出てきたことがある。


「ふ、ふぅ、ふぇ…………ひぃぅ……っ」

 

 泣いたら、おこられる。

 また、おこられちゃう。

 ぎゅっとちぢこまって、毛布に顔をおしつけようって。

 おこられる前、に、かくそうって。

 そう思ったんだけど。


 ぽんぽん、って。

 だれかが、ミンティシアをやさしくたたいてくれたの。

 あったかい、手。


「夜泣きか、ミンティシア」

「……おにぃさま?」

「どうした、怖くなったのか。それとも寂しくなったのか」

「おにいさま、おにいさま?」

「ん、どうした」

「おにい、さま……ここに、いる? いてくれて、る? ゆめじゃ、なぃ?」

「……私は夢ではないつもりだが?」


 どうしよう。

 どうしよう。

 だれかのうそじゃ、ないよね?


「ああ、この暗さじゃ見えないか。少し待ちなさい」

 きゅうに、さむくなる。

 ちかくにあった、あたたかいのがなくなって。

「お、にぃさま? どこ……?」

 手をのばして、だれもいない。

 こわい、おにいさま。

 どこ……?

 さがしていると、しゅぼって音がした。

 目の前、が、あかるくなる。

 おにいさまが、そこにいた。


 ほんとうに、ほんとうのおにいさま?

 ほんものの、おにいさま?

 ユメでも、うそでもないよね? 


「どうした。きょとんとした顔をして」 

「きょと、ん?」

「済まない、ミンティシア。ランプくらいは付けておくべきだったな」

「おにいさま、どうしてあやま、る、の……?」

「何も見えなくて、不安になったんだろう。わかってやるべきだった、済まない。今夜は油が切れるまでランプを付けておこう。こうすれば、夜でもよく見えるだろう?」

 そう言って、あたりまえみたいに。

 おにいさまはミンティシアのとこに来てくれた。

 ミンティシアのことを、ばしゃのときみたいに、ぎゅってしてくれる。

「きつくはないか、ミンティシア」

「ん……だいじょ、ぶ」

「今夜はずっとこうしていよう。そうすれば、不安にはなるまい?」

「…………うん」

 ぎゅって。

 おにいさまがしてくれたから。

 こわいのは、どっかに行っちゃった。

 さみしい、って、いうのも。

 ぎゅってしてくれると、ほっとする。

 おにいさまが、ここにいるって。

 目で見なくても、わかるから。

「おやすみ、ミンティシア」

「……おやすみ、なさい」

「ああ。いい夢を」

「…………ん」

 おにいさまがいてくれる。

 だからきっと、こわいユメは見ない。

 だけど、いいユメは見たくない、な。

 おきたとき、こわくなるから。

 おにいさまのユメ、は、見たくない。

 おにいさまがほんものか、どうか、こわくなるから。

 おきたとき、そこにほんもののおにいさまがいてくれたら。

 いいユメが見られなくっても、それだけでいいなって。

 そう、思った。 



ミンティシア語、「だだだ」

 → ダリウスのこと。

 自己紹介で「ダリウス・ダンダリオン」と名乗ってくれたものの、一発で覚えられなかったらしい。

 うろ覚えながら、()リウス・()()リオンと三つ続く「だ」の音が印象に残ったらしい。


ミンティシアの不安

 → お兄様にとっては過去に通った道。

 どうやら十年前、似たような状態に陥った覚えがあるらしい。

 隣国に留学して、初めて身分相応の扱いを受けて。

 こんなに優しくしてもらえるのは夢か妄想に違いないと自分を疑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ