欲しがりのお姫様
昔々、平和な王国にお姫様が住んでいました。
王様はお姫様を大変かわいがり、何でも与えていました。
「お父様、犬がほしいわ」
「皆のもの、犬を連れてまいれ」
お姫様は犬を大変可愛がりましたが、すぐに飽きました。
「お父様、飛行船がほしいわ」
「皆のもの、飛行船を用意せよ」
お姫様は飛行船で世界のあちこちをめぐりましたが、すぐに飽きました。
「お父様、お城が欲しいわ」
「皆のもの、城をもう一つ用意するのだ」
お姫様は王国の隣に作ったお城で大変幸せに暮らしましたが、すぐに飽きました。
犬はエサをもらえずやせ細り、飛行船は空気が入らずしぼんだまま。お城はすっかりと蜘蛛の巣が張ってお化けの城と国々に言われるようになりました。
平和な国は徐々にかげりを帯びてきました。全世界にこの国のお姫様はわがままだと言う事をしらしめてしまったのですから。
「お父様、国が欲しいわ」
「皆のもの、今日から姫が国王だ」
そしてある日、とうとう王様は国をお姫様に明け渡したのです。
王様はぜいたくするだけが仕事ではありません。平和が長く続くよう、北の方には見張りの兵を送り、南の方には開拓をして国の領土を増やし、西の方には橋が壊れてるから修理を送り、東の方には神のお告げがあったのですから迎えに行かなければいけません。
しかしお姫様はその事に何一つ手をつけませんでした。
替わりに行ったのは、毎日毎日パーティーを行ったのです。
このお姫様は頭が空っぽだ。このお姫様は頭が空っぽだ。
心ある人はそれを嘆いて、王様にもう一度王様になってくれるよう頼みましたが、王様は首を振ってはくれませんでした。
心ない人はある日、お姫様に声をかけました。
「毎日毎日パーティーをしてくれるのですから、どうせだったらもっと楽しくしましょう。きっともっと楽しくなりますよ」
お姫様は飽きっぽいですが、楽しい事は大好きです。心ない人の提案はとても魅力的に思えました。
心ない人が提案したのは、お姫様にいつもうるさい面倒くさい事を言う人達をパーティー会場で殺す事でした。
「お姫様、あなたはもうあなただけのものではないのです、どうか皆の事を助けて下さい」
心ある人達をギロチンに挟むと、首はとてもきれいに落ちました。お姫様はとても満ち足りた気分になりました。だって、口うるさい人がいなくなってしまったのですから。
毎日パーティーで心ある人達をギロチンにかけました。そのたびに心ない人達が「さすがはお姫様」とほめてくれるのです。お姫様は王様にもほめられた事がありませんから、ほめてくれると嬉しくなって、もっと人をギロチンにかけたくなるのです。
「そんな事をしてはいけないよ。皆にお墓を立ててあげるんだ」
ある日、今まで何でもお姫様にくれた王様が、初めてお姫様をしかりました。
お姫様は、王様がどうしてそんな事を言うのか分かりませんでした。分からないので、心のない人達に話を聞きに行きました。
「それはお姫様が邪魔だからですよ。ギロチンにかけてしまいましょう」
もし王様をギロチンにかけたら、お姫様はもっとほめられるでしょうか。お姫様は王様をギロチンにかけました。
首を落とされる前に、王様は涙をこぼしました。
「お前はとうとうひとりぼっちになってしまうんだね」
こんなにたくさんほめてくれる人達がいるのに、どうしてひとりぼっちになってしまうのだろう。
お姫様は王様の言葉の意味が分かりませんでした。
そしてお姫様は毎日お城でパーティーをするようになりました。
「お姫様、ご飯がありません」
お姫様は国中から食料を集めました。
「お姫様、召使い達がお金が欲しいそうです」
お姫様は召使い達を片っ端からギロチンにかけました。
「お姫様、国に兵がやってきました」
あまりにも傍若無人に振る舞ったがために、とうとう心のある人達が国を逃げ出して、隣の国に助けを求めたのです。
お姫様は国を追い出されてしまい、平和な王国は新しい王様を立てて、平和な国に戻りました。
お姫様は初めて追い出されたので、何故だろうと思いました。
ふと見ると、やせ細った犬がいました。お姫様が可愛がっていた犬はお城を追い出されていましたが、お姫様を見ると嬉しそうに寄ってきたのです。
お姫様は犬と一緒に、飛行船に空気を入れて、世界中を見て回りました。
お姫様は王様が大好きでした。王様は普段忙しくってなかなかお姫様と遊んでくれませんでしたが、いろんなものを見せて、お姫様の見聞を広めようとしてくれていたのです。
世界は広いです。国の人達みんなが緑色の国もありました。真っ白で雪に覆われた国もありました。貧乏でご飯を皆で分け与えている国もありました。
お姫様は犬を抱きしめました。やせ細っていましたが、毛並みはそれでもふさふさしています。
お姫様は王様にもらったものを、皆に返さなければいけなかったのです。だって王様はお姫様を本当に愛していたのですから。
「ごめんなさい」
お姫様は、生まれて初めて謝りました。