09 無謀な大学進学への戦いが始まった
『 大学進学は自分との戦いだ。戦いは勝つしかない 』
以前「田上先輩」が大学進学をすると聞いた時から俺も東京の大学に進学
したいとひそかに思っていた。
しかし、現実を考えると「バカ言ってるんじゃないよ」と返答が返ってく
る。
現実を見ると、費用は、学力は、どうする?。
最初に進学の相談を母にすると。即座に「 冗談でしょう義仁。勉強もせん
と何を言うとんや 」
「 我が家は始めて間もない小さな旅館で、まだまだ稼ぎも少ない」と即座
に叩きのめされた。
賛成どころか、学力も費用も全て否定されてしまった。
俺は笑って「 わかった、冗談じゃ… 」と言うしか出来なかった。
こうなれば、やる気を見せるしか方策がない。
この時、無謀な戦いが始まった。
昼から夜中の2時まで、風呂と飯以外は勉強。朝は普通に起きて学校へ。
次の日から学校から帰った後はテレビも見ず。夜中まで勉強の真似事が始
まった。
苦しい最初の10日間が過ぎた日。
風呂に入り晩飯を食べていたとき。
「 義仁、本気なの 」と母が。「 まーな 」と、そっぽなく返事をした。
すると母が「 しばらく様子を見て、とうちゃんに相談してみるから…… 」
こうなれば、やってしまうしかない。とりあえず勉強材料を集めてみようと
思い。普通高校の先輩から参考書を借りて、とにかく読んでみた。
工業高校なので数学や物理は少し理解できるが、英語はレベルが低くて全
く駄目だ。可能なのは理工系しかない。進む方向は決まった。
担任は機械の実習担当で( 通称:クマさん )気楽に話せる、いわば鉄工
所の良いおっさんだ。
2年生も終わりに近づき、日に日に寒さが増してきた頃。
先生「 お願いに来ました」クマさんは困った顔で「 なんか悪いことで
もしたんか?」と。
いやー違います。お願いに来ました。
「 大学へ行きたいんで授業中は入試の勉強を。午後の授業は受けずに家
に帰って勉強をしたい 」数秒が……。
「 結城、この事は公に認めることは出来ない。先生は聞いてない事にす
る 」いいな。「 ただし、学校の定期試験で欠点は出さんようにしてくれ 」
トラさんのおかげで午前中の授業が終わりしだい、帰っても何の問題も起
きなかった。
その後、参考書や問題集を買い込み授業中に入試勉強をしても、午後から
早退しても注意される事はなかった。
きっとクマさんが根回ししてくれたお陰だ。苦労人のクマさんに感謝。
しかし、毎日続けるのは想像以上に苦しい。まだまだ覚悟がたりないな。
そう思いながら数日が、たちまち過ぎ自分の不安と根性のなさに腹がたち。
もう諦めようかと何度も落ち込んだ。
くそー負けへんぞ!
1ヶ月以上が過ぎた頃、母が親父と話をしたようで「近くに狭い部屋を借り
たから、明日からそっちに行って勉強しなさい」と、ぽつんと一言。
「 ボロッチイ6畳一間とトイレそれに小さい流し台があるだけだよ 」
~ 嬉しかった。頑張ろうと勇気がわいてきた。 ~