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愛撫

 深更。


 イツキはため息とともに何度目かの寝返りを打った。


 吉継と同じ屋敷にいる。

 それなのに一人寝をしている。

 島にいるときはアゲハと夜具を並べて寝ていたが、この広い屋敷にはアゲハの寝所も用意してあり、アゲハはそちらで大人しく眠っている。

 旅の疲れもあったのだろう。

 はじめのうちは「一人は寂しい」と言っていたが、子守唄を歌ってやると、一曲目を歌い終わる前に寝息が聞こえてきた。


 そしてこちらの部屋にやってきて、もうどれぐらいの時が経っただろう。


 今日は吉継は来ないかもしれない。

 いや、そもそも来るとは誰からも言われていない。

 今頃は小石の方の寝所にいるのかもしれない。

 吉継が来てくれるかもしれないと勝手に期待して待っているが、このまま徒に時だけが過ぎていくのかと思うと馬鹿馬鹿しいような、自分の愚かさを責めたいような気持ちになってくる。


 一つ屋根の下にいるのにと思うと、島でアゲハと二人で寝ているよりも寂しさが募り、胸が苦しくなる。

 そして、先ほどからじりじりと欲望の度合いだけが高まっていく。


 イツキは体の中心が火照っているのを感じていた。

 吉継の手で触れられるという想像が頭を離れない。

 吉継に愛撫されたい。

 吉継と抱き合い混ざり合って一つになってしまいたい。

 思えば思うほど、目が冴え、呼吸が浅くなる。


 その時、廊下を歩いて来る人の気配があった。


 もしや、と思って慌てて体を起こす。

 乱れた小袖を整え、深く息を吸い込む。


 足音は急速に近づいてきて、隣の座敷が開かれる音が聞こえた。


“イツキ。起きておるか?”


 待ちに待った吉継の声が胸に轟いた。


“はい。起きておりまする。しばし、お待ちを”


 寝間着の小袖で城の主を迎えては失礼にあたる。

 イツキは立ち上がって、衣桁の打掛に手を伸ばした。


 しかし、イツキの言葉に反して遠慮なく背後で寝所の襖が開かれた。


「殿!」


 イツキは打掛を腕に抱え、自分の身を隠すようにその場に蹲った。

 慌てて手を床につき、頭を下げる。


“女には支度がございますのに”


 イツキは畳を見つめたまま性急な吉継を非難した。


 吉継はイツキの前に膝をつき、イツキの左手を取った。


“そんなものは良い。どうせすぐに脱ぐのだ”

“殿……”



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