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彼者誰記  作者: 黒漆
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鹿が見下ろす寺

 子供の頃の夏休み、僕は友人のお寺の子の家に泊まりにゆきました。彼のお寺は山際の、急斜面の下にちょこんと座るようにして建てられておりました。僕が友人の誘いに乗ったのは、普段の生活から離れた、ちょっとした期待感を味わいたいからという気持ちも、少しはあったのだけれど、この時期に夜の間、本堂からカモシカの姿をみる事ができるんだと耳にしていたからなのです。

 お日様が山向うに隠れて、花火やスイカを一通り楽しんだあと、僕らはいよいよ本尊が奉られているお堂に向いました。お堂はなぜか山に向った東側の戸や襖が全て取り払われていて、本尊の仏様の姿が丸見えの状態にされていたのですが、当時の僕は特別違和感を感じる事もありませんでした。なぜならば、これから起こる出来事に対しての期待感で僕の気持ちは一杯だったのです。

 僕等はお堂の西側の襖の向うで、ろうそく明りを頼りに少しの間、話しをしながら待っていたように思います。その内、山の斜面に自生した膝丈ほどの雑木を分け、カモシカがその姿を僕らの前に現したのでした。優しげな月明りが、その身体に立派な髭のような体毛を隙間なく、隆々と流すカモシカの姿を照らし出して幻想的な世界を作りだしていました。

 僕らは心を奪われて、しばらく見とれていた、そんな時でした。

 お堂の畳の上に青い燐光が凝り落ち、わだかまったと思うと輪郭を明確に現して、僕の前に姿を見せたのです。それは、斜面のカモシカを二回りほど小さくした愛嬌のあるかたちをとっておりました。

 透き通った青いカモシカの子。その子が丸くうずくまっていて、首を斜面のカモシカに向け、そのまま時が止まったように二匹とも動きません。やがて、僕の友人が飽きてしまったのか、もう良いよ、向う行って遊ぼう、そういって僕の手を引いた時、青いカモシカの子の姿は消えてしまい、じっと見つめる斜面のカモシカだけが月明かりの下、作り物のように動かず、ずっと残っておりました。どうやらその子が見えていたのは僕だけのようでした。

 後に友人の親のご住職に僕が見たものは何だったのでしょうと聞くと、見えたのかと驚かれ、何年か前に車にカモシカの子供が車に轢かれていたのをみつけ、なんとか手当てをしようとお堂に運び入れたのだが、結局助からなかった。その後、毎年夏の決まった時期、お堂の戸や襖をなぜか突き破って入り込むカモシカが現れるようになってしまった。困ったご住職がそれならばと戸と襖を外すと、カモシカがお堂に入り込む事は無くなった。代わりに七日間だけああして斜面から本堂の中を見下ろすのだと教えて下さいました。

 カモシカが親子なのだろうかと疑問に思って訊いてみたところ、どうやらそれは違うらしく、毎年雄雌、角の長さも違ったカモシカが姿を現していたのだそうです。

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