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俺の死亡が日常の事になってから30回目くらいのこと。

「四条、少しいいか?」

「…なんでまた」

天野が俺に話しかけてきた。 これまで授業を受けているところと邦章と話しているところしか見ていないのでちょっとした違和感を感じる。 俺が死ぬことが何か問題を引き起こすのか?

「珍しいねー、天野さんが邦章以外に話しかけるなんて」

「確かにそうだな。…って邦章ともそんなには話して無くないか?見るようになったの三日前くらいからじゃ?」

「え?あ、そうだっけ? 駄目だ何かと混同してるな…。何とだろ?」

「俺が知るか」

多分今日の記憶とだけどそれを言ってもな。 天野には内容までは聞き取れないような声で話す。怪訝そうな顔をしているがまあいいか。

「…で、少しいいかと聞いているんだが」

「駄目だっていったらどうするんだ?」

「引きずってでも連れて行く」

さらっとひどいことを言うなこいつ。 まあちゃんと聞く気ではあるからいいんだが。

「…分かったよ。 ってなわけで伊月授業さぼるなよー」

「お前にだけは言われたくないかな」


そうやって中庭に連れてこられた。 天野にはここが定番なのか?

「で、何なんだよ用事は。こんなとこまで連れてきやがって」

「ああ、それなんだが、四条、お前死のうとか飛び降りようとか考えてないか?」

やっぱりそれだったか。予想外だが想定内だった展開に少し喜びを覚える。だがそれを悟らせては駄目だ。違和感を感じさせてはいけない。 演技でごまかす。

「………そんなことは考えたこともない」

目を逸らす。顔をうつむかせる。溜める。小声で言う。 図星な時の反応って大体こんなだろう。

「…嘘だろう? 何故隠す?」

「…隠すも何も最初からそんな事実はない」

…相手をだますって自覚してると演技じゃなくても眉間にしわ寄ったりするものだな。まあ現実味ますからいいか。

「…ちっ。 だから何故嘘をつく? 何か意味があるのか?」

「、でもどうせ他人に言ったって…、あ、いやだから嘘なんてついて…ない…」

やばい、もう少し引き延ばすつもりだったのに。 急に相手の語気が強まったことが微妙に怖かった。でも本当のことを口に出さなくてよかった。

「…そうか。それは仕方ない。しかし、今日というのは本当にやめてほしい」

「…言われるとしたくなる。なんで今日じゃダメなんだ?理由は?学校で死なれると困るのか?」

「…訳の分からないことになるかもしれないが、それでもいいなら理由を話す」

…話すのか。 次回には忘れてるっていう余裕か?

「いいから教えてほしい」

「私は今調べていることがあるんだ。それで、今日お前に死なれると、そこから先調べることができなくなる」

「…なんで調べられなくなるって分かるんだよ。あと調べてることってなんだ」

「…訳の分からないことになるがいいか?」

「二度も聞くなよめんどくせぇ」

「…そうか。………実は、今日が来るのはもう127回目だ」

「は?」

そんなに何回も?

「…何だ、それ。 どうしてそんなことが分かるんだよ」

本音を出しそうになった。知っていた前提の話はしちゃだめだ。ごまかしても怪しまれることになる。

「信じてはくれるのか」

「…嘘なら普通もっとまともなことを言うだろう」

「…そうか。で、何故分かるかだが、まあ普通に前回の記憶が残っている。今日も昨日も明日も10月19日…そろそろ飽き飽きしてきた」

「前回の記憶って…、じゃあ、この後未来どうなるかとか今日限定ならわかるのか?」

「だから言っているだろう。四条は昼休みに飛び降りて自殺する。そして何故かそこで時間が今日の午前0時…まあつまり今日が始まった瞬間に戻るんだ」

「…はぁ」つまり俺が死んだ後の事は分からないのか。流石に人ひとり死んだ後ではそれまでの結末とは違うだろう。

「…つまり、俺に死なれるとどうしてもその時間が戻る現象というかなんか…まあいいやソレの原因を調べるための時間がどうしても足りなくなるからやめてほしい、と?」

「…理解が早くて助かる」

「………」

しかし、俺だって死ぬかそれに相当するようなショックがないと記憶を維持できない。どうすべきだろうか。

   …ああ、割と簡単な手があるな。

「分かった、じゃあ明日にでも死ぬことにするよ」

「結局死ぬ気ではあるのか」

「当然」 まあ飛び降りじゃなくても色々あるしな。


「…日付が変わる前に、か」

窓の外に月が見える。見入ってしまうくらいの満月だ。でも見ている暇はない。もうとっくに家に帰りつき、日付も変わる寸前になってしまっている。

「こんなんでいいかな。 …落ちるなよ?」

天井につるした輪に首を掛け、台に使っていた椅子を蹴る。 何も飛び降りだけが死ぬ方法というわけでもない。

意識が消える直前に見た時計の針は11時57分を指していた。

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