6月6日
注意!この小説は、非常に多くの6、または六を含みますので、六恐怖症の方は、十分に注意してお読みください。
ああ、今年も6月6日がやってきた。
彼の誕生日で……命日。
私たちは、六年前の今日、結婚するはずだった。
しかし、彼はその日の朝六時に、何者かに殺された。
ナイフで六ヶ所を刺され、二目と見られない状態になっていた。
犯人はいまだに捕まっていない。
私は六日六晩泣き続けた。
あれから六年経ったのか。
最近になって、ようやく心の整理がついてきた。
そして今、彼の墓場の前に立っている。
雨が降っている。
彼が死んでから、この日にかならず雨が降るようになった。
まるで、空が彼の死を悲しんでいるみたいだった。
6月6日の六時に六ヶ所を刺されて死んだ、可哀想な彼に、6本の朝顔を供えた。
彼の好きだった花だ。
「朝顔って、毎日早起きして、すごいよな。尊敬するよ」
彼はそう言っていた。彼は、朝寝坊ばかりしていたから……
いつのまにか、私の周りには、五人の黒い服を着た者達が居た。
彼の……父、母、兄、妹、そして、親友。
腕時計を見ると、朝の六時になろうとしていた。
彼の死んだ時間。
彼の父は、事故で片目を失っていた。
彼の母は、ハンカチで右目を押さえている。
彼の兄は、眠そうに左眼をこすっていた。
彼の妹は、私が苦手らしく、いつも母親の後ろに隠れていた。今は、左側だけ見える。
彼の親友は、「痛い痛い」と言いながら、左目をこすっていた。目にごみが入ったみたいだ。
そして、今私は、右目が少し前に腫れたので、眼帯をしている。
ゴトリと、彼の墓から音がした。
同時に、六人が音のしたほうを見つめる。
六人が一人一つずつ、合計六個の瞳が、墓を見つめた。
すると、備えてあった饅頭が落ち、コロコロと転がった。
それは、彼の妹の前で止まった。
その時、私は全てを理解した。
彼を殺したのは、彼女だ。私は、彼女が彼を殺した理由が何となく分かった。
彼女が彼を見る目は、妹のそれとは違った。
彼は気付いていないようだったが。
もしかしたら、私が女だったから、分かったのかもしれない。
そう、彼女は自分の兄に恋をしていた。
そして、彼を私に取られるのが悔しかった。
だから、まさに私に奪われる当日、殺した。
そんなところだろう。
全てを理解したが、不思議と私は何も感じなかった。
もし六年前の私だったら、間違いなく、的確に、素早く彼女を殺していただろう。
でも、今は全くそうは思わない。
多分、心の中で完全に彼の存在が風化しているからだろう。
なぜなら今、私は彼の顔を思い出せないからだ。
多分、こんなに薄情な人は、そう多くはいないと思います。