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寒空の下

作者: 鈴夜 音猫


 12月25日、クリスマス。本来、救世主・キリストの誕生を祝うはずであるこの日、街にはうようよと恋人達がひしめき合う。

 そんな中、私はこの寒空の下クリスマスケーキを売りさばいている。


「ブッシュ・ド・ノエルですね、ありがとうございます」


 ニコニコと接客するけれど、その笑顔はこの寒さに凍りついたように私の顔に貼り付いてるだけ。


「本当、カップルしか来ませんね。ムカついてきます」


 私同様、笑顔を顔に貼り付けたバイトの後輩がぼそりと呟く。

 クリスマスは忙しい反面、人が足りなくなる。それは彼らも恋人との時間を楽しみたいからなんだけど……


「ドタキャン、だったみたいね」


「それならまだ許せます。でも、忘れてたってどう思います?!」


 どうやら彼女の彼氏さんは記念日やらイベント事に疎いらしい。だから先に友人達との約束を入れてしまい、当然会えると思っていた彼女が激怒するに至っている。

 とはいえ彼女は約束していた訳ではないのだから、それは彼女にも落ち度がある。と思うのが、彼氏さん同様イベントに疎い私の意見だが。


「でもちょっと忘れることって人間誰しもあるしさ……」


「恋人のイベントを分かってないんですよ、彼は」


 うん、てかクリスマスって恋人のイベントじゃないし。そもそも恋人のイベントって言われてるバレンタインとかも実際はちょっと違うし。

 そう心の中で反論しつつも、実際にはそんなこと言えない弱い私は、彼女の言葉に苦笑いするしかなかった。





「お疲れ様。寒かっただろ?」


 何とか完売したのは夜の10時をすぎた頃。いつものバイトの時間より早くはあるけど、ずっと寒空の下にいた私達の体は冷え切っていた。


「さ、これをどうぞ」


 パティシエでもある店長が差し出してくれたのは甘いココア。それをありがたく2人で飲んでいると、店長が悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ところで君達、彼氏はいないのか?」


「店長、軽くセクハラですよ」


 隣にいる彼女を気にしながら、私はわざと明るく店長を茶化す。すると店長は快活に笑った。


「いや、悪い。確か君達は実家ではなかったと思ってね」


 店長の言うように私達は近くのマンションにそれぞれ一人暮らしをしている。けれどそれが彼氏がいることと何の関係があるのか分からず、私達は互いに顔を見合わせた。


「はい、今日頑張ってくれたから、ちょっとしたボーナスだ」


「「いいんですか?!」」


 店長が差し出してくれたのはお店のロゴが入ったケーキの箱。お店のケーキに惚れてここでバイトしてる私達は喜びすぎて声がハモってしまった。


「あれ、でも私の大きくないですか?」


 後輩の言葉によく見てみれば確かにそう。けれど中身が彼女が好きなイチゴのショートケーキだから間違いはないと思われた。


「君は1人じゃないからね」


 そう言って店長はニヤニヤと笑いながら裏口を指差した。それを見て私も合点がいく。

 店長の言葉に動けなくなったらしい彼女の背中をトン、と叩いてやると彼女は一瞬私を見た後、泣き笑いの表情で裏口に駆けていった。


「さて、じゃあ帰ろうか。送っていくよ、お嬢さん」


「……店長、なんか最近オヤジっぽいですよ」


 私の言葉に店長は苦笑いしながらも私を促す。そして私達は裏口を避けて外へと出た。


「あ、雪!」


 ちらちらと真っ暗な空から降り注ぐ真っ白な雪が、私の手のひらの上で溶けていく。そして私の吐く白い息が夜空に溶けて消えていった。





 世の中そんなに上手く行かない。人と人が関われば、分かり合えもするけどぶつかり合いもする。

 けれど、1人じゃないから生きていける。

 どんなに辛く悲しいことがあったって、誰かが傍にいてくれればきっと明日には笑えるはずだから。



【End】


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